11. お化粧ならあのひと(2)
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んですか?」
私は、この言葉に、なんだか懐かしい感触を抱いた。あの、まだ私たちの仲が悪くなかった頃の、優しく朗らかな、あの時の榛名姉ちゃんの声に近い。
「うん」
つい、素直に返事をしてしまった私は、そのまま視線を上げ、榛名姉ちゃんの顔を見た。そこにいた榛名姉ちゃんの眼差しには、なぜか憎悪は感じなかった。表情も、いつになく柔らかく、以前の榛名姉ちゃんに近い。
「クマ、隠さないんですか?」
「え、えっと……」
「?」
「あたい……普段、お化粧なんてしないから、よく分かんなくて……」
気のせいかな……榛名姉ちゃんの顔がどんどん険しくなってくる……また怒られるのかな……また、憎まれるのかな……
でも。
「……」
「摩耶姉ちゃんも、いつもすっぴんだし……口紅塗っても、あんな感じだから……」
「……」
「……ほんとは、隠したいけど……」
――榛名さんは?
ゆきおの言葉が頭をかすめた。あの時は何の冗談だと思ったけど……
「……」
今の、険しいけれど、目だけはどことなく優しい感じがする榛名姉ちゃんなら、なんとなく、教えてくれそうな気が……
「あ、あのさ……榛名姉ちゃん」
「……」
「も、もしよかったらさ……」
……いや、教えてくれそうだからじゃない。今分かった。私は、榛名姉ちゃんと仲直りして、クマの消し方を教えて欲しいんだ。だから今、私の口は、恐怖と不安で押しつぶされそうな私の心の代わりに、榛名姉ちゃんに、お化粧のことをお願いしようとしてるんだ。
「あ、あたいに……」
だって。昔みたいに、榛名姉ちゃんと、仲良くしたいから。
……でも。
「……」
「お化粧、おし……え……て……」
私の口は、最後まで言うことは出来なかった。私の喉が、恐怖と不安に、ついに白旗を上げてしまったようだ。最後の方は、鼻がツンと痛くなって、涙で目が滲んで、声も震えて言葉にならなかった。泣きたくないのに。ちゃんとお願いしたいのに。私は涙がこぼれるのを我慢したくて、目をギュッと閉じた。
次の瞬間、私の右手首が誰かの手にギュッと握られ、そして前に引っ張られた。
「えっ……」
あまりに力強く引っ張られたため、私はそのまま前に引っ張られるままになった。目を開くと、そこには私の手を右手で引っ張り、スタスタと歩いている榛名姉ちゃんの背中があった。
「あ、あの……榛名……ねえちゃん……」
「……」
大きな歩幅でスタスタと、急ぐように足早に歩く榛名姉ちゃん。私は榛名姉ちゃんと比べると、歩幅が小さい。だからついていくのに精一杯だけど、榛名姉ちゃんはそれに気付いていないのか、私のスピードに合わせようとはせず、スタスタと足早に歩いて行く。
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