暁 〜小説投稿サイト〜
俺の涼風 ぼくと涼風
11. お化粧ならあのひと(2)
[2/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
んですか?」

 私は、この言葉に、なんだか懐かしい感触を抱いた。あの、まだ私たちの仲が悪くなかった頃の、優しく朗らかな、あの時の榛名姉ちゃんの声に近い。

「うん」

 つい、素直に返事をしてしまった私は、そのまま視線を上げ、榛名姉ちゃんの顔を見た。そこにいた榛名姉ちゃんの眼差しには、なぜか憎悪は感じなかった。表情も、いつになく柔らかく、以前の榛名姉ちゃんに近い。

「クマ、隠さないんですか?」
「え、えっと……」
「?」
「あたい……普段、お化粧なんてしないから、よく分かんなくて……」

 気のせいかな……榛名姉ちゃんの顔がどんどん険しくなってくる……また怒られるのかな……また、憎まれるのかな……

 でも。

「……」
「摩耶姉ちゃんも、いつもすっぴんだし……口紅塗っても、あんな感じだから……」
「……」
「……ほんとは、隠したいけど……」

――榛名さんは?

 ゆきおの言葉が頭をかすめた。あの時は何の冗談だと思ったけど……

「……」

 今の、険しいけれど、目だけはどことなく優しい感じがする榛名姉ちゃんなら、なんとなく、教えてくれそうな気が……

「あ、あのさ……榛名姉ちゃん」
「……」
「も、もしよかったらさ……」

 ……いや、教えてくれそうだからじゃない。今分かった。私は、榛名姉ちゃんと仲直りして、クマの消し方を教えて欲しいんだ。だから今、私の口は、恐怖と不安で押しつぶされそうな私の心の代わりに、榛名姉ちゃんに、お化粧のことをお願いしようとしてるんだ。

「あ、あたいに……」

 だって。昔みたいに、榛名姉ちゃんと、仲良くしたいから。

 ……でも。

「……」
「お化粧、おし……え……て……」

 私の口は、最後まで言うことは出来なかった。私の喉が、恐怖と不安に、ついに白旗を上げてしまったようだ。最後の方は、鼻がツンと痛くなって、涙で目が滲んで、声も震えて言葉にならなかった。泣きたくないのに。ちゃんとお願いしたいのに。私は涙がこぼれるのを我慢したくて、目をギュッと閉じた。

 次の瞬間、私の右手首が誰かの手にギュッと握られ、そして前に引っ張られた。

「えっ……」

 あまりに力強く引っ張られたため、私はそのまま前に引っ張られるままになった。目を開くと、そこには私の手を右手で引っ張り、スタスタと歩いている榛名姉ちゃんの背中があった。

「あ、あの……榛名……ねえちゃん……」
「……」

 大きな歩幅でスタスタと、急ぐように足早に歩く榛名姉ちゃん。私は榛名姉ちゃんと比べると、歩幅が小さい。だからついていくのに精一杯だけど、榛名姉ちゃんはそれに気付いていないのか、私のスピードに合わせようとはせず、スタスタと足早に歩いて行く。


[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ