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誘拐篇
2 思い立ったら、全力で急げ
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  _「俺も随分と鈍くなったものよ。まさかお前に、隙をつかれるたぁな。」


  _え? 今の攻撃は、確実に彼にヒットしたはず。
   なのに、彼の体が 離れない。


  _「でも、危なかったなァ。あともうちょっとのとこだった。」


  見ると、私の足は、彼の足に封じられている。

  _「…高杉…貴様…!どうやって…!?」

  _「おいおい。それはないだろ?」


  そう言って彼は、じりじりと迫ってくる。

  _「やめ…やめろ! 放せ、私を愛しているならな…」



  もうこうなったら、心理戦に持ち込むしか、道はない。
  私の長年の勘が、そう伝えていた。

  だが彼は、そんなものでは通用しなかった。


  _「愛しているからこそ、お前と一緒にいたいんだァ。あとな、
    お前の中の『獣』は、オレじゃないと 止められない。
    それはお前が1番、知ってることだろ?」

  高杉の舌が、首筋に触れる。
  意識が、遠のいていく。



  次々によみがえる、血塗られた過去。
  「獣」に支配されていた、私。


  必死で映像を追い払い、「自分」を取り戻す。


  _「だからこそ……はぁ…はぁ…私は、『そいつ』に抗うって……ふぁっ……決めたんだ。」

  _「お前に、そんな力が? あるとは思えないがな。」


  彼はそう言って、口を私の耳のそばに持ってきた。

  _「黙れ、もうその手には…乗らんぞ」


  そして、また囁く。「狂気」への道を。

  _「お前がオレの仲間になる ってんなら、オレはいつでもこんなこと、やめるがァ…」




  彼の手が、私の胸に伸びる。その拍子に、彼の体が引きあがる。
  そのすきに、全身の力を込めて、枕の方にずり上がった。
  そして、枕の下に隠してあった銃に、手を伸ばす。

  だが、時は少し 遅かった。

  _「やめ…やめろ… ひゃ!」

  手は後ろで縛られていて、自由に使えない。
  それをいいことに、彼はゆっくり…まるで、1つ1つ確かめていくように、もみほぐしていく。


  意識が吹き跳びそうになるなかで、手探りで銃を探した。

  あった!だが、腕の力が抜けて、指に力が入らない。


  _「どうした? 何を考えている?」

  良かった。まだ気づいていないらしい。

  _「…今 少し、お前の仲間になろうかっ…はぁっ……と考えていた…ところだ…」

  _「…ほぅ…やっとその気になったか…
    ならば、今ここで宣言しろ。」

  彼の手が、止まった。今だ、
  一回、銃を離した。

  _
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