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誘拐篇
1 人生には、知らなかった方がいいこともある。
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、体にバスローブをまとい、浴室から出た。

  その男は、ベッドのふちに腰掛け、煙管を携え、窓の方をみていた。



  _…煙管…あの煙管は…

   どこかでみたような景色だ。



  思わず ドキッとした私は、本能的に、浴室のドアの影に入り、様子をうかがっていた。



  _…あの煙管…見覚えがある。確か、ある男が持っていた。


  _誰だったっけ…

  だが、どれだけ思い出そうとしても思い出せない。




  _いや、とりあえずあの煙管男を殺すしかない。
   そして、今夜中に ボスのもとへ戻らねば。


  そう思って、支度を整え、その男に向かおうとした時、
  ふと後ろに、何かの気配を感じた。



  _誰だ?



  その言葉を言おうとした時、誰かに口をふさがれた。そして、腕を取られ、後ろに縄で縛られた。

  そして耳元で、そいつは囁いた。

  _「久しぶりだな、杏奈」


  _その声は…!


  _「ちょっと目を離した隙にいなくなっちまって…
    探したんだぜェ…」



  _「もう1度、オレと再び仲間になろうって約束しただろ…
    お前となら、この腐った世界を粉々にすることができる…ってな」


  渾身の力でそいつの手を振りほどき、最大の皮肉を言った。
  _「貴様、誰だ? 私は知らんぞ、そんなやつ。」


  するとその男は、こう言った。
  _「ほう… オレを忘れたかィ。ならば、思い出させてやるよ。」


  そう言って、私はヒョイと抱き上げられ、ベッドの上に落とされた。

  _今だ! 逃げろ!

  自分の中の何かが叫ぶ。
  逃げようとした時、そいつに引き戻され、私の上に覆いかぶさった。

  ジタバタするも、どうにも体が動かない。


  そしてその男は覆面を取り、紫色の髪をなびかせ、顔をあらわにした。



  やはり、嫌な予感は的中した。

  _高…杉…!


  _「思い出したかィ?」


  絶対に認めたくなかった。あいつが、今ここにいるなんて。

  _「…いや、誰だ、お前?」

  _「思い出したんだな、やっと。
    昔からお前は、嘘がつけない。目がすべてを物語っている…」


  あっさり認めてしまった。

  _「…降参だ。わかったから、放せ」

  _「いや、放すわけにはいかないな。」

  _「放してくれたら、言うことを聞いてやってもいいと思ったのに。」



  _「その減らず口も、相変わらずのままだな…」

  そう言って、私の唇を奪った。

  

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