10. お化粧ならあのひと(1)
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しく眺めていた私だったが、今は、その大変さに同情する。
「ふぅ……えとさ。摩耶さんは?」
水をすべて飲み干した後、ゆきおは苦悶の表情を崩すこと無く、私の方を見てそう答えた。その時、ゆきおが摩耶姉ちゃんのお化粧の惨劇を見たことがないという事実を思い出した。なんだか最近ずっと一緒にいるから、もう昔からの友達のような感覚がしていたけれど……まだ知り合って数カ月しか経ってないんだなぁ。
「摩耶姉ちゃんもさ。お化粧って苦手なんだ」
「意外だねぇ。あんなにキレイな人なのに。でも、だったらダメだね……」
……思い出した。前に一度、摩耶姉ちゃんが『アタシだって……!!』と一念発起し、見様見真似で口紅だけを塗ってきたときのこと。真っ赤な口紅をこってりたっぷりぬってきたものだから、唇だけ妙に浮いて見えて、随分大笑いしたっけ。
「ぶぶっ……」
「?」
「あ、いやゴメン。思い出し笑い」
……話を元に戻すが、摩耶姉ちゃんは多分普段はお化粧はしてない。もし知ってたら、私が眠れなくてクマを作った時に、『アタシが消し方教えてやんよ』とか言いながら、お化粧でのクマの消し方を教えてくれるはずだ。あの摩耶姉ちゃんなら。
それをしてくれないってことは、きっと摩耶姉ちゃんは、お化粧でのクマの消し方を知らないんだと思う。
となると、他の人に教えてもらうしかない。五月雨はダメだし……他だと……いつもお菓子をくれてる鳳翔さんに教えてもらってもいいんだけど……でも教えてくれるかな……
「……あ」
私が誰に教わるか悩んでいたら、ゆきおが頭に豆電球が灯ったような口ぶりで声をあげていた。右手で拳を軽く握り、それで左手の平をポンと叩くという、なんだか提督が小さい頃に流行っていた漫画に出てきそうなリアクションを取りながら。
「ん?」
「榛名さんは?」
「……」
その名前は、よりにもよって、一番力になってくれそうにない人の名だった。
「……ゆきおー。わりぃけど、榛名姉ちゃんはダメだ」
「そなの? なんで?」
――だって私は、榛名姉ちゃんに憎まれてるから
「……なんでも」
「?」
いくら仲のいいゆきおといえど、あの話はまだしたくない。ゆきおには、まだ私たちの過去のことを、知って欲しくはなかった。
私のちょっとおかしな反応を見て、何かがあるとゆきおは勘付いたらしい。それ以上はゆきおも、特に私を問いただすことはなかった。ただそれでも榛名姉ちゃんの線は諦めきれないらしく……
「でもさ。ダメだって決まったわけじゃないよ? ひょっとしたら教えてくれるかもよ?」
と、しつこく私に、榛名姉ちゃんのことをおすすめしてくる。このしつこさは一体何なんだろう。私の中で、小さな疑問が芽生える。
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