10. お化粧ならあのひと(1)
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……なぁ、涼風ぇぇえええ』
『イヤだ……イヤだ! あたいたちは帰る!! みんなで帰るんだッ!!』
『帰ってもまだとんぼ返りで出撃だぁ。だって作戦完了してないからなぁ』
『……ック!!』
『だから行くんだ。なぁ、涼風ぇ……俺の、俺だけの……涼風ぇぇぇええエエエ!!!』
……
…………
………………
瞼を無理矢理こじ開けられたかのように、私は目を覚ました
「……ッ」
右手の甲で、自分の額に触れてみる。顔はおろか全身が、びっしょりと汗をかいていた。これだけ汗をかいているのに……いや、汗をかいているからなのか、布団をかぶっているのに、とても寒い。
「……っく」
身を縮こませ、周囲を見渡す。真っ暗で周囲はよく見えないけれど、かろうじて、ここが自分の部屋だということが理解できた。
「また……なんで……」
思い出したくない、忌まわしい過去の記憶を夢に見たらしい。ゆきおと出会い、楽しい日々を過ごしてきた中でずっと忘れていた感覚が、再び身体を縛っているのを私は感じた。
悔しいけれど……私はまだ、あの男が作り上げたおぞましい狂気の過去に、縛られ続けている。震える私の身体が、それを物語っていた。
それから眠れない時間が過ぎた朝。寝不足で重い身体を引きずって私は食堂に朝食を取りに向かった。いつも私を起こしに来る摩耶姉ちゃんが、珍しく今日は私の部屋にやってこない。そういえば摩耶姉ちゃんは、昨日の夜から夜戦の作戦に出ていて、帰ってくるのは今日の夕方過ぎだったことを思い出した。いつもならやってくる人が来ないというのは寂しいけれど、作戦ならばそれも仕方がない。私はいつもの制服に着替え、一人で朝食を食べに食堂に向かう。
「うう……眠い……」
気を抜かなくても、あくびが何度も出てくる。顔を洗うときに鏡を見たが、やっぱり今日は目の下のクマがひどい。出来ればお化粧でもしてクマを隠したいのだが、そのやり方を私は知らないし、化粧道具も持ってない。仕方なく、そのままの顔で食堂へ続く廊下をとぼとぼと歩く。
「……あ、涼風ちゃんおはよー」
「おーう五月雨ー。おはようさーん」
食堂へと向かう道すがら、私の姉妹艦の五月雨と偶然出くわした。普段はこの時間は摩耶姉ちゃんと一緒にいるから、他の子と会って話をすることは珍しい。
「涼風ちゃん、眠れなかったの?」
「ん? なんで?」
「目の下のクマ、ひどいよ?」
目の下のクマは、私が思っている以上にひどいらしい。五月雨の、朝の挨拶の次のセリフがこれだ。
「へへ。昨日ちょっと夜ふかししちゃってさ。あんまよく寝られなかったんだ」
「そっか。んじゃ今晩は早く寝なきゃね!」
本当のことを五月雨には知られたくなくて、適当
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