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俺の涼風 ぼくと涼風
10. お化粧ならあのひと(1)
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とはなぁ。身の程をわきまえろ』
『やかましい!! お前の命令など聞く耳持たんッ!!! 我々は戻る! 貴様の愛しい涼風自身の命令でな!!!』
『貴様もだよ榛名ァ』

 だが、提督は那智さんのそんな怒号すら、涼しい顔で受け流しているように見えた。今、通信機から聞こえてくる提督の、落ち着いた……嫁の金剛さんがひどい怪我を負って轟沈寸前とは思えないほどに冷酷な声は、さらに私達に追い打ちをかけた。

『ここで戻ってきても変わらんぞ那智。また、同じ面子で出撃するだけだ』
『……ッ』
『涼風がこの作戦を完遂するまでは、何度でも何度でも、涼風を旗艦として出撃する』
『……黙れ!』
『お前らが怪我をしてるなら、バケツで回復させて出撃する。バケツがなくなれば回復せずに出撃だ。士気が下がってるなら間宮のアイスを食わせてやるから喜べ。伊良湖のモナカでもかまわんぞ。俺が直々に、お前たちの口にぶち込んでやろう』
『……貴様、狂ったか……ッ!?』
『資材の心配はいらん。今もゴーヤたちを24時間フル稼働でオリョールで活動させている。それでも足りなくなったら、いらん奴らを解体して資材をかせぐ。これは作戦終了まで……涼風がこの作戦を完遂するまで続く。俺の涼風が、俺の涼風に相応しい、輝かしい栄光をつかむまでな。お前らの死はその足がかりでしかない。盾は盾らしく、俺の涼風を守ることだけ考えてろ』

 提督の口から告げられる、極めて冷静な狂気。金剛さんただ一人を除いて、私たち全員の顔から血の気が引いていった。

『涼風ちゃん……』

 隣の五月雨が、私の顔を見る。その顔は恐怖で青ざめきっていて、身体がカタカタと震えている。

 言わなければ……私が言わなければ、提督は止まらない。私は震える喉に鞭打って、通信機に対しありったけの大声を出して、提督の一切を拒否した。

『提督! あたいはそんな命令は受けたくねぇ!! みんなに守ってもらってまで、作戦を完遂したいなんて思わねえ!!!』

 私の視界の隅で、金剛さんが比叡さんに肩を貸してもらっていた。比叡さんが私を見る。私が提督に対して啖呵を切ったのがうれしかったようだ。目に輝きが戻り、私を見る視線が力強い。

『そっかぁ……涼風ぇ……』

 提督の声から力が抜けたのが分かった。これなら帰ることが出来る。提督が意気消沈した今なら、帰ることが出来る。私はそう信じ、皆に対して撤退命令を出そうとした。

『じゃあ……』

 だが、提督はそんなに甘い人ではなかったことが、次の通信で分かった。この男は、すでに狂気に呑まれていたのだと、私達は理解した。

『がんばって、作戦遂行しようなぁ……涼風』
『……ッ!』
『お前は絶対に轟沈させない。盾はたくさんいる。お前は安心して、作戦を完遂すればいいんだよぉ
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