630部分:第四十九話 馬岱、真名を言うのことその一
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第四十九話 馬岱、真名を言うのことその一
第四十九話 馬岱、真名を言うのこと
南蛮への旅の中でだ。魏延の劉備への献身は凄まじいまでであった。
「あっ、それでしたら私が」
「私が持ちますので」
「いえいえ、私が御護りしますので」
とにかく朝から晩まで何かにつけだった。寝ても起きても劉備であった。
「わしは言ったぞ」
厳顔も呆れ果てている。
「しかとな」
「けれど効果はないのね」
「あそこまでとはのう」
こう言って呆れるばかりなのである。
「思わなかったわ」
「そうなのね」
黄忠も旧友の言葉に頷く。
「けれど魏延さんって」
「劉備殿を心から愛しておる」
それはわかるというのだ。
「しかしのう」
「度が過ぎるというのね」
「そう思わぬか、御主も」
こう黄忠に話す。今二人は森の中で横に並んで座っている。最早そこは密林で二人は倒れている木に腰掛けているのだ。
「あれはじゃ」
「それはそうだけれど」
「そう思うじゃろ」
「けれど私はいいと思うわ」
ところがだった。黄忠はここでこう言うのであった。
「あれでね」
「よいのか?」
「あくまで私の考えだけれどね」
こう断ってからさらに話す黄忠だった。
「別に何もする訳でもなし」
「実はあれでじゃ」
厳顔はその魏延のことを話す。
「あ奴は奥手なのじゃ」
「あら、そうなの」
「自分から手出しはようせん」
そうだというのだ。
「劉備殿から誘わぬ限りはな」
「それなら絶対に大丈夫ね」
「結果としてそうなる」
それを厳顔も認める。
「全く。喧嘩や戦闘では積極的じゃがな」
「色恋になるとなのね」
「あの通りだ」
別の意味で呆れている様子の厳しい顔であった。
「全く。わからぬ奴じゃ」
「けれどそう言っても」
「何じゃ、今度は」
「優しい感じよ、今の貴女は」
黄忠は旧友のその顔を見て微笑むのであった。
「とてもね」
「そ、そうか」
「そうよ。やっぱり嬉しく思ってるのね」
「まああ奴は弟子じゃからな」
一応はこう言う厳顔だった。
「わしとても見捨てることはせん」
「それも可愛い弟子ね」
「直情的に過ぎるが筋はよい」
それも認める厳顔だった。
「武芸も人間としてもな」
「そうよね。それでだけれど」
「うむ、それでじゃな」
「あの娘はこれからも見守るのね」
「釘を刺すのは忘れぬ」
これはしっかりと言うのであった。
「あそこまであからさまだと。言わずにはおれん」
「うふふ、それはそうなのね」
「そういうことじゃ」
こんな話をしてであった。厳顔は弟子を温かい目で見ていた。しかしそうではない者もいたのだった。
「全く何よ」
「どうしたのだ、
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