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俺の涼風 ぼくと涼風
9. はじめての演習(2)
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んっ」

 私の顔を見て、戸惑いながらも頷くゆきお。初めて海を滑るからなのか、表情はちょっと硬くなってはいるが、ほっぺたを赤く染めるゆきおの目は、とても輝いている。

 私たちがゆっくりと大海原に向かって前進していると、私たちに通信が入った。陸の方を振り返ると、提督が右手を顔のそばまで持ってきている。どうやら私達に通信を送っているのは、提督のようだ。

『おーい二人共』
「はーい」
『沖には出るなよー。適当なところで引き返せー』
「りょうかーい」

 提督にも釘を刺されたし、そろそろ戻ろうか。私は、今まっすぐ前を見て、ひたすらゆっくりと全身しているゆきおを見る。やっぱりちょっと、緊張しているようにも見えるけど……

「よしゆきお。そろそろ戻ろうぜ」
「う、うん。だけど……」
「ん? どした?」

 ゆきおの身体がカタカタと震え始めた。顔をプルプルさせながら私の方を向いたゆきおの目は、なぜか涙目になっている。

「ど、どうしよ……曲がれない」

 ゆきおって、こんな泣きそうな顔するんだ。なんだか面白い。

「す、すずかぜー……どうすれば……」
「ぶふっ」
「笑ってないで、教えてよッ!」
「わりぃわりぃ。『左舷ていしー』って思ってみ」
「う、うん……さ、さげーん……てい……ぉおっ!?」

 ゆきおの身体が、急に左にぐるっと向いた。主機が指示に対して敏感に反応してしまったようだ。突然ぐるっと振り回された形になったゆきおは、そのまま体勢を崩し、右に倒れそうになってしまう。

「ゆきおっ!」

 私は慌てて手を伸ばし、倒れそうなゆきおの手を取って、ゆきおが倒れないよう、支えてあげた。倒れる勢いが思いの外強くて、私も一緒に倒れそうになったが、そこはベテラン艦娘。逆にゆきおの手をひっぱり、ゆきおを私の懐に引き寄せた。

「ぉおっ!?」
「よいしょっとー」

 私の胸に、ゆきおの顔がぼすんと当たる。顔を上げたゆきおの顔は、真っ赤っかになっていた。

「あ、ありがと……」
「へへ……」

 私の胸元に収まるほど、細っこくて華奢なゆきおの身体は、とても暖かい。私はそのままゆきおの手をとって、二人で手を繋いで、提督の待つ陸へと、戻っていった。

「涼風」
「ん?」
「今度は二人で、大海原いこうね」
「んっ!」
「今度は、僕も自分の艤装をつけていくからね!」
「おう!!」


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