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俺の涼風 ぼくと涼風
9. はじめての演習(2)
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も心地いい。陸にいる提督を顧みると、私たちを眺めながら、とてもうれしそうな……でも、ちょっと泣きそうな、そんな不思議な表情をしていた。提督も泣きそうなほどうれしいみたいだ。ゆきおに艤装を装着させてよかった……。

 こうなってくると、せっかくだからゆきおにも水面上を、艤装を使って滑ってみて欲しい。そう思った私は、ゆきおの手を取ったまま、自分の主機に火を入れ、ゆっくりと少しずつ、回転数を上げた。

「う、動くの?」
「あたぼうよ! せっかく立てたんだ! このまま海の上を滑ろうぜ!!」
「う、うん……っ」

 返事はちょっと不安げだが、ゆきおの目は、さっきよりも輝きを増していた。私を真っ直ぐ見つめるその眼差しは、紙飛行機を飛ばした時のような真剣さが伝わってくる。私はそのままゆきおを引っ張り続け、少しずつ少しずつゆきおを前進させる。

「涼風ー! あまりスピードはあげるなよー!」
「わかってらぁ!」
「す、すずかぜ……」

 提督のエールを受けて、私は船速を維持することに決めた。地上を歩いたほうが早いほどの、本当にゆっくりとした船速。だがそれでも初体験のゆきおにはとてもむずかしいようで。中々に主機を回そうとしない。

「なーゆきおー」
「ん!? な、なに?」
「そろそろゆきおも、主機を回していいんだぜ?」
「ど、どうやればいいの? やり方わかんない……」
「『両舷、全身びそーく』て心の中で思ってみりゃいいんだよ」
「う、うんっ。りょ、りょうげーん……ぜんしん……びそーく……」

 私を助けてくれたあの日とは異なり、おっかなびっくり、たどたどしくゆきおはそう口にした。途端に主機が反応し、ゆきおの身体に加速がつく。と同時にゆきおはバランスを崩して倒れそうになるが、そこは大丈夫。私がしっかり支えている。

 やがて、ゆきおは少しずつコツを掴んできたようだ。次第に姿勢が安定してきた。演習場の隅っこまで来たので、私はゆきおの手を引っ張り、身体を海の方角へと誘導する。

「涼風、だいぶわかってきた!」
「へへ。さすがはあたいと姉妹艦!」
「姉弟艦って言ってよっ!」

 私はそのまま、まっすぐに海の方へと誘導する。ゆきおの姿勢制御が安定してきた。いつまでもゆきおの手を握っていたかったが、ずっとそのままでは一人前にはなれない。

「……ゆきお」
「ん?」

 私は、ゆきおの手をすっと手放し、そのままゆきおの左側で並走する。

「うわっ……」

 手を放した瞬間こそ一瞬バランスを崩したが、ゆきおはすぐに持ち直した。そのままの姿勢で、ゆきおは自力で航行をしはじめる。

「……すずかぜ」
「ほら。ゆきお」
「……ぼく、今、自分で海を走ってる……」
「これでゆきおも、一人前の艦娘だなー」
「う、う
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