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俺の涼風 ぼくと涼風
9. はじめての演習(2)
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ドバイスを受けても踏ん切りがつかないらしい。不安げな表情を浮かべ、念願の海を前にして、ゆきおはまったく微動だにしない。

 仕方がない。私が先に海に降りて、ゆきおをエスコートしよう。私は持ってきていたスペアの主機を足に装着し、ゆきおの隣をガシャガシャと通りすぎて、先に海に立った。そのあと振り返り、私はゆきおに手を伸ばして、ゆきおが海に足を踏み入れるのを待つ。

「ほらゆきお」
「うう……」
「だーいじょうぶだって! いけるいける!!」

 不安で真っ青になっているゆきおを、そう言って元気付ける。しばらくまごついていたゆきおは、意を決し、私をキッとまっすぐ見つめた後、海面をジッと見つめながら、右足を恐る恐る持ち上げ、そして海面に乗せた。

「おおっ……」

 主機が着水した途端、ゆきおの艤装が作動し、ゴゴゴという静かな音をたてる。主機を中心に水面に小さな波紋が幾重にもできはじめた。

 私はゆきおの元に静かに移動する。ゆきおが左足も持ち上げた。そのままゆっくりと水面に左足を踏み入れる。私は、前に突き出しバランスを取っているゆきおの右手を取って、ふらふらしているゆきおの身体を支えてあげる。

「す、すずかぜ……」
「ん?」
「は、離さ……ないで……ね?」
「あたぼうよぉ」

 フラフラしながら持ち上げていた左足も着水し、ゆきおが今、水面に立った。相変わらず腰が引けているけれど、ゆきおはしっかり、水面を踏みしめて、私達と同じように、水面に立っていた。

「お……おおっ……」
「ほら、立てた」
「お、ぉおっ!?」
「危ないっ」

 突然、私に向かってグラッとゆきおが倒れこんでくる。パランスを崩したらしいゆきおを受け止め、私はゆきおが倒れてしまわないよう、支えてあげた。

「す、すずかぜ……助かった……」
「へへ……」

 私にしがみつく、ゆきおの両手が暖かい。私がカーディガンを羽織っているからか、それともゆきおが私のそばにいるからか、私の鼻の周辺に、ゆきおの消毒薬の香りが漂っていた。

 ゆきおは私にしがみついたまま、体勢を立てなおして背筋を伸ばした。自信がないのか、私の身体から手は離さないけれど、その手がとても温かく、心地いい。私はゆきおの両手を再び取って、ゆきおがちゃんと立てる手助けをしてあげることにした。

「あ、ありがと」

 ゆきおの顔に血の気が戻ってきた。この状況に少しずつ慣れてきたらしい。と同時に、ほっぺたがほんのりと赤くなってきた。男の艦娘であるはずの自分が、艦娘として海に立てたことが、じんわりとうれしくなってきたようだ。

「やった……今日が、はじめて僕が海に立った記念日だ」
「だな! やったなゆきお!!」
「うん!」

 はにかむゆきおを見ていると、私もとて
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