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俺の涼風 ぼくと涼風
8. はじめての演習(1)
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ープみたいなやつが馴染みがあるんじゃない? それより早くちょうだいよっ」

 紙袋の中に手を入れ、中の桜餅を一つ、ゆきおに手渡した。それを受け取ったゆきおは、私が手を放すやいなや、その桜餅を、葉っぱを取らずにそのまま口に運び、いつかのようにつきたてのお餅みたいな緩みきった顔になった。

「んー……桜餅……おいしい……」

 私はこのタイプの桜餅は初めてだが、ゆきおがゆるみ切るのならきっと美味しいはずだ。私もゆきおにならい、もうひとつの桜餅を、葉っぱを取らずに口に運んだ。

「んー……」
「んー……ん!?」
「ん?」

 予想以上の美味しさに、私は声を上げてしまった。この桜餅も、ご飯のような生地と、それに包まれたあんこの組み合わせが絶品だ。

「んー……ゆきおー……」
「んー?」
「あたい、桜餅が葉っぱでくるまれてる理由、よく分かったよ。んー……」
「んー」

 そして、葉っぱのほんのりとしたしょっぱさが、桜餅の甘さを引き立てる。シナモンのような独特の香りが鼻をこしょこしょとくすぐって、とても気持ちがいい。

 私がよく知る桜餅もとても美味しいが、この桜餅も気に入った。ゆきおと一緒に食べてるからなのかも知れないなと、少し思った。

「甘いモノって美味しいなー……」
「ねー……」

 飲み込んでしまった後も、口の中にほんのり残る桜餅の香りが心地いい。

「んー……美味しかった……」
「なー……美味しかったなー……」

 こうして私たちは、しばらくの間桜餅の余韻に浸った。

 ひとしきり桜餅の残り香を堪能したあとは、いつものようにゆきおは読書に戻る。私も時々ゆきおの本を隣で覗いたりするのだが、やっぱり読んでいても意味がわからない。ゆきおは本当に頭がいいなぁと、いつも関心する。

 今日のゆきおは、『艤装全集』というタイトルの、これまた分厚い本を眺めていた。どうやら艦娘の艤装の百科事典のようなもので、神風型の小さなものから、大和型の巨大なものまで、艤装のすべてが網羅されたもののようだ。

「こんな本もあるんだなぁ」
「父さんがくれたんだ。一般には販売されてないんだって」
「ふーん……」

 ゆきおがぺらぺらとページをめくる。この本は文章よりも資料写真とイラストや図面が主なようで、私も見ていてとてもおもしろい。ベッドの上で上体を起こし、カーディガンを羽織ったゆきおの隣に腰掛け、私はゆきおと一緒にその本を眺めた。おかげで私とゆきおは距離が近く、時々お互いの肩が触れる。

「へへ……」
「んー?」
「なんでもねーよっ」

 ゆきおと同じ本を、同じペースで一緒に眺めているということが、私には少しうれしかった。それに、私の肩に時々ふれる、カーディガン越しのゆきおの感触は、とても気持ち
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