暁 〜小説投稿サイト〜
俺の涼風 ぼくと涼風
8. はじめての演習(1)
[3/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


 頭に豆電球が灯ったようにハッとした提督は、今度は妙に真面目な顔で私を見つめた。提督の真面目な顔は、よく見ると、ゆきおの眼差しにも似ている気がした。

「今日もお前、雪緒のとこ行くのか?」
「うん。最近は毎日行ってる」

 何かと思えばそんなことか。私は最近、ヒマを見つけてはゆきおの部屋に行っている。特にお菓子を持っていく日なんかは、ゆきおも大興奮で私を出迎えてくれる。私よりもお菓子のほうがうれしそうというのは、いささか腹立たしい事実だけど。

 その後、『雪緒をよろしくな』という、至極どうでもいいお願いをされた私は、季節外れの桜餅が二つ入った紙袋を持って、足早にゆきおの部屋に向かった。いつものようにゆきおの宿舎の三階に上がり、ゆきおの部屋をノックする。ドカンドカンという、駆逐艦の私に似合う、砲撃音のようなノックを響かせ、ゆきおの返事を待った。

『涼風?』
「うん! あたいだ! 涼風だ!!」
『空いてるよ。どうぞー』

 いつものように、ゆきおの優しい返事が聞こえた。私はうずうずする気持ちを胸に、ドアノブを勢い良く回して盛大にドアを……開けようとして、やめる。

――丁寧に開けろって言ったろうが……

 今しがた提督から言われた一言が、頭をかすめた。ここのドアを壊すわけには行かない……わたしは静かにドアノブを回し、そぉっとドアを開く。顔をやっと覗かせることが出来る程度にドアを開けたところで、私はそこから見えるゆきおに、こっそりこそこそと声をかけた。

 ベッドの上で上体を起こしているゆきおは今日もカーディガンを羽織っていて、不思議そうに私の方をジッと見る。頭の上にはてなマークが浮かんでいるし、思い切りシワが寄った眉間が、ゆきおが今の状況に疑問を抱いていることを私に伝えていた。

「?」
「よっ……ゆきおっ……」
「なんでそんなにコソコソしてるの?」
「提督にさ……ドアは静かに開けろって言われたんだ」
「なんで?」
「執務室のドア、壊しちゃったろ?」
「あ、なるほど」

 他に誰かがいるわけではないのだが……私は静かにドアを開き、ゆきおの部屋に入る。ゆきおの部屋にも、少しずつ物が増えてきた。たとえば……

「でっかい本棚だなー……」
「うん。今日届いた」

 ゆきおのベッドの隣には、高さが私の背丈以上はある、とても大きな本棚が置いてある。ちょっと気になって本棚の前に行くと、以前にゆきおの部屋で見たことがある本が、いくつか収納されている。それ以外にも、背表紙を見る限り、小難しいそうな、分厚くて大きい本で一杯だ。

「ゆきおって、頭いいよなー」
「そんなことないよ……」

 ゆきおがほっぺたを赤く染めて、私から顔をそらしている。褒められたのが恥ずかしいのかな? でも本当のことだ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ