7. 二人で一人(2)
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主機を装備した私の足が海面に立つ。手には久々に持つ小さな主砲。背中には、あの日におんぶしたゆきおよりもずっしりと重く、そして冷たい魚雷発射管が背負われている。
『涼風、久しぶりの実戦だ。絶対に無理はするな』
「……わかってる」
不安で一杯の私の耳に、提督からの通信が入った。
「いいか。ヤバくなったらすぐに撤退すっからな」
「うん」
先に水面に降り、出撃口近くで私を待っていた摩耶姉ちゃんも私に声をかけた。久々に見る、摩耶姉ちゃんの主砲とハリネズミのような対空砲は、私の記憶の中のものより、さらに大きく、禍々しい物に見えた。
「……轟沈だけはしないで下さい。目の前でやられたら気分悪いですから」
「……」
摩耶姉ちゃんよりも私に近いところで私を待ってる榛名姉ちゃんは、いつもと変わらない辛辣な言葉を投げかけた。腕を組み、私に冷ややかな眼差しを向けている榛名姉ちゃんの艤装は、私のものよりもはるかに大きく、そして雄々しい。
「……提督」
『ん?』
「ゆきおは?」
『昼飯を食ったら自分の部屋に帰ったな。でもお前の出撃は気にしてたぞ』
「そっか」
『心配するな。敵は近海の偵察部隊だ。お前たちなら、3人でも問題なく殲滅できる』
提督の激励を、摩耶姉ちゃんは鼻で笑っていた。私だけでなく、摩耶姉ちゃんも榛名姉ちゃんも、この鎮守府では練度が高い。それなのに、まるで初出撃のような激励をされることに、違和感を覚えたようだった。
「はんッ。言ってくれるぜ。あたしらはブランクがあるとはいえなぁ」
もちろん提督の言葉は、久々の出撃となる私への激励なわけだが。
『渡した発信機はつけてるな?』
私の服の裾にとりつけられた、飾り玉に触れた。一見、緑色の水晶のようにも見えるそれには、先ほど提督から渡された発信機が仕込まれている。私の服につけても違和感がないようにと配慮されたものだ。
これはつい最近に実戦配備されたものだ。発信機から得た情報は、執務室のモニターで映像処理された状態で見ることができる。現在位置や戦況、発信機を持つ艦娘の状態までモニターできるスグレモノだと聞いた。
『それを使って、お前たちの行動はこっちでずっとモニターしてる。こちらでも異変を感じたら、すぐにフォローを入れる』
「……そんな恥ずかしいことにはならないようにしてください涼風さん」
「うん……」
「いざって時は榛名姉ちゃんが守ってくれるってよ」
「麻耶さん。世迷言を言わないで下さい」
摩耶姉ちゃんが榛名姉ちゃんをからかい、榛名姉ちゃんをそれを涼しい顔で聞き流す。その様子が、なんだか昔の私たちの関係性を少しだけ思い出させた。あの時と違うのは、榛名姉ちゃんの言葉に辛辣さがこもっていることだが……。
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