7. 二人で一人(2)
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「涼風」
「……」
「……涼風!」
私が自分のことで精一杯になっているその間、私は摩耶姉ちゃんに声をかけられていたらしい。摩耶姉ちゃんの大声が私の耳にやっと届く。私の意識が別のところに気を取られ、摩耶姉ちゃんの声に気付くことが遅れた。
「……な、なに?」
「お前は無理すんな。いざとなったら、アタシか榛名の後ろに隠れてろ」
「う、うん……」
私を気遣う摩耶姉ちゃんの顔から、笑顔が消えた。本格的に戦闘が始まる。あの惨状を生み出した戦闘が始まる……私が仲間を殺してしまった戦闘が……私の身体が少しずつ、自由を奪われていく。仲間を失う恐怖が、私の頭を飲み込んでいく。
「……来ますよ」
榛名姉ちゃんの言葉と、私たちの前方に敵影が見えたのは、ほぼ同時だった。パスッという、小さな砲撃音が鳴った気がした。
「散開ッ!」
「先に撃ってきやがったか……んにゃろッ!」
榛名姉ちゃんと摩耶姉ちゃんが私から遠ざかる。私は動けない。主機が動かない。身体が言うことを聞かない。
「!?」
「涼風!?」
――涼風ぇぇ……
私のほっぺたを何かがかすめた次の瞬間、私の背後で水柱が上がり、ドーンという轟音が鳴り響いた。かろうじて動く右手で、ヒリヒリと痛むほっぺたに触れる。ほっぺたに触れた人差し指を見た。血がついていた。
「バカッ! 動け涼風!!」
「……」
動きたい。動きたいけど、身体が言うことを聞かない。
「摩耶さん! 涼風さんを!! 榛名は敵を叩きます!!」
「くっそ! やっぱこうなるのかよ……!!」
榛名姉ちゃんの主砲が火を吹いた。敵が一体砕けたのが見える。
――ソーリーネ……涼風……
不意に、私の左手が誰かに引っ張られた。がんじがらめになった首をやっと動かし、左手を見る。摩耶姉ちゃんが、私の手首を掴んでいた。
「バカッ! 動けって!! いい的だぞッ!!」
動きたい。動きたいけれど。
――涼風ちゃんは大丈夫? なら……よかった……
私を守って沈んでいく、みんなの声が耳にこびりついて離れない。主機を回したいのに、私の身体が言うことを聞かない。
「……摩耶……ねえ……ちゃ……」
「!?」
「ごめ……から……だ……うごけな……」
「クッソ……やっぱ……!!」
口すら満足に動かせない。動きたい私の意識とは裏腹に、私の身体が動くことを拒否する。
――だったらさぁ……
「摩耶さんっ!!」
榛名姉ちゃんの叫びが聞こえた。直後、私の左手を掴んでいた摩耶姉ちゃんが、後ろに弾き飛ばされる。敵の砲弾が着弾したらしい。勢いで私の手を離してしまった摩耶姉ちゃんは、私の後方に吹き飛んだようだった。
「こんにゃろッ……」
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