7. 二人で一人(2)
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「よし、いこうぜ涼風」
「うん」
摩耶姉ちゃんの主機が、低い音を上げて回転を始めた。続けて榛名姉ちゃんの主機の音も響き、二人の身体が全身を始める。私も主機の回転数を上げ、発進に備えた。
「……第一艦隊、出撃します」
旗艦の榛名姉ちゃんが、静かに、出撃の指示を出した。
「「了解」」
榛名姉ちゃんの静かな……とても静かな出撃命令を受け、私は前進を開始した。敵との戦闘を目的とした出撃は、あの日以来はじめてのことだ。
「……」
パニックに陥ること無く、私は任務を全う出来るだろうか。不安が私の胸一杯に広がる。ここまでは大丈夫。問題ない。でも、実際の戦場は違う。そんなところでもし、またパニックに陥ってしまったら……
―― そんな涼風がさ。出来ないわけないよ。僕は、そう思ってる
ゆきおの声を必死に思い出し、私は自分の心を沈めることに努めた。ゆきおは私を信じてくれた。私ならきっと出来ると、私の背中を信じてポンと押してくれた。
なら、私は出来るはずだ。大好きなゆきおが、そう言ってくれるのなら。
私は主機の回転数を上げた。自身のスピードを上げ、先行していた摩耶姉ちゃんと榛名姉ちゃんに追いつくべく、まっすぐに前を向き、二人の背中を追い駆けた。
「おっ。涼風、ふっきったか?」
「まだわかんない。でも、出来ることを精一杯やろうと思う」
「……よし」
二人に追いついた私に対し、摩耶姉ちゃんが笑みを向けてくれた。その微笑みは、いつもの摩耶姉ちゃんの笑顔と比べて、ほんの少し、嬉しそうに見えた。
「おい榛名! スピード上げっぞ!!」
「旗艦は榛名です。命令しないで下さい」
「いいから!」
「……船速を上げます」
榛名姉ちゃんの背中のスピードが上がる。私も主機の回転数を更に上げ、二人のスピードに必死に食らいついていった。
作戦海域は、鎮守府からはそう離れてなかった。とはいえ、以前にゆきおを連れて行った海域に比べて、距離はその何倍も離れている。領海ギリギリのところで私たちは一度船速を下げた。
榛名姉ちゃんが、右手を右耳に当て、静かに佇んでいる。いつの間にか索敵機を発艦させていたらしい。艦載機からの通信を聞いているようだ。
「……見つけました。12時方向から、こちらに近づいてます」
私の心臓が、バキンと音を立てた。
「編成は?」
「駆逐イ級が4、雷巡チ級が2です。編成そのものは大したことないですが……」
「数が多いな……」
「ええ」
摩耶姉ちゃんと榛名姉ちゃんが、冷静に戦いの段取りを組み立て始めた。二人の会話が、なんだか遠いところでの会話のように、私の耳にはかすかにしか届かない。私の身体を、恐怖が支配し始めたようだ。
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