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俺の涼風 ぼくと涼風
6. 二人で一人(1)
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さ。意気地なしなんだ。『明日出撃しろ』って言われて、怖くて怖くて身体が震える、臆病者なんだよ……」

 私の言葉を受け止めていたゆきおが、私の肩からゆっくりと右手を離し、正面を向いた。ゆきおの右手が私の肩から離れたことは少しだけ残念に思ったが、肩にはまだほんのりと、ゆきおの体温の感触が残っていた。

「ぼくはさ。そうは思わないけど」

 今まで私の話を黙って聞いていたゆきおが、いつもの柔らかく優しい声で口を挟んだ。不思議とその声は、私の耳にではなく、私の胸の奥にまで届くような、そんな声だった。

「……どういうこと?」
「涼風はさ。この前、僕を海に連れて行ってくれた。艦娘なのに海に出たことのない僕のために、コソコソと鎮守府の中を一緒に隠れてつっきって、あんなに大きくて、あんなに広い海に、僕を連れて行ってくれたでしょ?」

 ……そんなこと。私じゃなくても、きっと誰でもやってる。きっと摩耶姉ちゃんだって、あの時の私と同じ立場ならそうするし、榛名姉ちゃんだってきっと……。

「……で、摩耶さんにバレても、『もうちょっと海にいてもいい?』て言ってくれたでしょ?」
「うん」
「あの時の摩耶さん、きっとめちゃくちゃ怒ってたでしょ。でも、そんな摩耶さんに『もうちょっと海にいてもいい?』て言える涼風が、意気地なしで勇気がないとは思えない」

 確かに私はあの時、初めての大海原にはしゃぐゆきおのために、怒り心頭の摩耶姉ちゃんに対して、『もうちょっと海にいてもいい?』ってお願いしたけれど……

「そんな涼風だから、仮に明日出撃することになったとしても……怖くて怖くて身体が震えても、きっと任務をやり遂げる」
「……」
「……ぼくはね。そう思ってるよ?」

 ゆきおが再び私を見下ろした。いつもの優しい、私が大好きな、とても優しいゆきおの笑顔。

 不意にカーテンがさらさらとなびいて、冷たい風が室内に入ってきた。

「ん……やっぱりカーディガンないと、ちょっと寒いね」

 ゆきおが寒そうに肩を縮こませ、両手で自分の二の腕をさすりながら、苦笑いを浮かべた。風は冷たく、そしてゆきおの髪を少しだけ乱す程度に強い。少しだけ震え始めたゆきおの両手は、男の子のそれとは思えないほど華奢で、そしてとても弱々しかった。

 私は立ち上がった。涙を右手で拭い、そのままカーディガンを脱いで、再びゆきおに羽織らせる。

「……ん。ありがと」

 ゆきおの肩にかけたカーディガン越しに、私は両手でゆきおの両肩に触れた。まるで駆逐艦の女の子のように華奢で細いその肩は、優しいぬくもりを私の手の平に与えてくれる。

「あたいにカーディガン貸して、自分が風邪ひいてたら、世話ねーや」
「そだね。でもやっぱあったかい。涼風が羽織ってたからかな」

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