6. 二人で一人(1)
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いるのだということを、イヤでも思い知らされた瞬間だった。
以来、私は出撃を命令されることはなくなった。常に遠征任務と演習という、できるだけ実戦から遠く離れたところでの活動を余儀なくされた。戦うために命を授かった艦娘としては、本来なら悲しむべきことなのかもしれない。
だがそれでも私は、もう仲間を沈めるような事態にはならないことに安堵していた。あの時のように、私を守って沈む仲間はもういない。体中穴だらけにされたり、身体を砕かれたり、穴を開けられたりする仲間が出ないという事実は、私の心に平穏をもたらすには、充分だった。
そんな私だから、提督から下された命令には、恐怖を抱かざるを得なかった。
ゆきおと出会った日から今日まで、久しく忘れていた感触が、私の全身を駆け巡った。生ぬるくて気色悪い空気が、私の全身を包み込む。心臓がぎゅうぎゅうと縮こまり、空気は生ぬるいはずなのに、身体は寒くて寒くて震えが止まらない。
「……提督」
「ん?」
身体がガタガタ震えているその隣で、榛名姉ちゃんが厳しい口調を提督に向けていた。周囲に意識を向ける余裕なんかないはずなのに、なぜか榛名姉ちゃんの冷たく厳しい声だけは、私の耳に容赦なく届いていた。
「なぜ、この体たらくの涼風さんを加えるんですか?」
私の耳に、榛名姉ちゃんの声が刺さる。でも本当のことで、私には何も言い返せない。言い返す気力も沸かず、言い返す余裕もない。私はただひたすら、身体に襲いかかる恐怖に抵抗することで精一杯だ。
「……涼風はここしばらく、遠征続きだ。ココに来て半年経つし、そろそろ出撃に抵抗もなくなってきたんじゃないかと思ったんだが……」
「でもこれでは、使い物にならないでしょう」
「おい榛名、もうちょっと言い方ってのがあるだろ」
「榛名は本当のことを言ってるだけです」
「それに正直なところを言うと、練度が極めて高い涼風を遊ばせておくというのは、大きな損失だ。本人の将来のためにも、出来れば最前線で戦えるようになっておいてもらいたい」
「でもよー提督」
私に関する話が、私のはるか遠いところで繰り広げられている。私も何か口をはさみたいのだが、何を言いたいのかが自分でも整理できない。『大丈夫』だと言えれば一番いいのだが、恐怖ですくむ身体が、それを許してくれない。私は今、何もすることが出来ない、非力で小さな、たたの子供になってしまっていた。
やがて、私の話をしていたはずの3人の会話が止まった。摩耶姉ちゃんは私の右肩に手を置いてくれている。私の肩をギュッとつかむ摩耶姉ちゃんの手からは、私に対する思いやりと心配が伝わっているが、それでも私の身体に絡みついた恐怖は、私から剥がれ落ちない。
一方で、私の左隣の榛名姉ちゃんは、ただ黙って、冷やや
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