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俺の涼風 ぼくと涼風
6. 二人で一人(1)
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も、負けない自信はある。

 でもそれは、演習での話だ。私は今、あの忌まわしい過去のせいで、実戦で戦う事が出来ない。出撃しようとすると、怖くて怖くて身体が震えてくる。また私を守ろうとして、誰かが沈むんじゃないか……私が戦場に立つことで、艦隊の大好きな仲間たちが、全員沈んでしまうんじゃないか……反射的に、そう思ってしまう。

 まだこの鎮守府に編入されて間もない頃、私は摩耶姉ちゃんと榛名姉ちゃんと、他の仲間と共に、一度だけ遊撃部隊として出撃しようとしたことがある。近海で発見された駆逐イ級の艦隊を殲滅するだけの簡単な任務だった。だけど。

『ま、摩耶姉ちゃん……ッ』
『!?』
『ごめ……身体……が……摩耶……姉ちゃ……ッ……!!』

 出撃する寸前、私の身体は恐怖ですくみ始め、主機の回転も止まり、主砲を持ち上げることすら出来なくなった。季節は初夏で蒸し暑い日のはずなのに、寒くて寒くて、身体を動かすことすらままならなくなった。

――涼風ぇぇ……

 直後、みんなの喧騒とざわつきに混ざって、もう二度と聞きたくない声が、私の耳に確実に届いた。

『ヒッ……』
『涼風!! しっかりしろ涼風!!』
『あいつの声が聞こえる……摩耶姉ちゃん! アイツがいる!! すぐそばにいる!!!』
『いないって! あいつは塀の中だ! ここにはいないって!!』
『いるって! あたいの耳には聞こえるんだ! あいつの声が聞こえるんだッ!!』

――また……いっぱい、みんなを連れて行こうなぁ……

『嘘だッ!! また、みんなにあたいを守らせる気だ!!』

――そして……みんなにいっぱい……守ってもらおうなぁ……涼風ぇえ……

『イヤだ……イヤだぁ!!』
『落ち着け涼風!! 大丈夫だから! 誰も沈まない!! あたしらは誰も沈まないから!!!』
『逃げろ!! みんな逃げろッ!!! あたいなんか守らなくていいからッ!!!』
『涼風!! 涼風ッ!!!』
『やめてくれ!! イヤだ!!! 誰も沈むなあたいを守るなァァァアアア!!!』

 その時、取り乱した私が何を叫んでいたのか、具体的には今も思い出せない。私の記憶では、そこから摩耶姉ちゃんにキツく抱きしめられているところまで、記憶が飛んでいる。そして。

『作戦を変更する。涼風と摩耶は離脱。第一艦隊は旗艦を五月雨へ変更。そのまま出撃しろ。……摩耶』
「ああ」
『涼風を医務室に連れて行け。涼風を休ませてやってくれ』
「了解だ……ッ」

 提督からのその通信を聞き、出撃が取りやめになったことと、私を守って沈む仲間がいなかったことに心から安堵し、やっと心が落ち着いたあの時の感覚は、今でも鮮明に思い出せる。あの忌まわしい日々は、今も私の脳裏にべったりとこびりついて、私はそれに囚われて
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