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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第二十三話 降伏
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「小出相模守様、どうして私に降伏交渉を任せようとお考えになったのでしょうか? あなた様は初めから私に任せるつもりであったかのように思いました」
「選択肢の一つと考えていただけだ。降伏した者が使えそうなら使うだけのこと。それに江川殿が私に降伏するとは限らない。違うかな?」

 俺は笑みを浮かべ江川英吉に質問を投げかけた。

「今思えば、あなた様は私に降伏させることにこだわられたように思います」
「拘ってなどいない。あの交渉では人の生死が関わっているのだ。無駄な犠牲を出さずに済む道があるなら選ぶように努力するべきと思っているからだ。それに戦場で苦しむのは女子供と相場が決まっている」

 俺は自嘲するように江川英吉に小さく笑った。俺の言葉に江川英吉は感慨深そうに俺のことを見ていた。

「だから、あの時に私達を脅迫されたのですか?」
「さて、どうかな。買い被りすぎだ。江川殿の協力を得たかっただけかもしれんぞ」

 俺は視線を逸らした。

「江川英吉、小出相模守様にご尽力いたします。郎党の者達のことをよろしくお頼み申し上げます。それと天ヶ岳砦への道案内をさせていただきたい」

 江川英吉は俺に平伏し屋敷の者達のことを頼むと言った。言われずとも約束する。しかし、天ヶ岳砦への道案内も了承してくれるとは予想外だった。

「貴殿が仮に死んだとしても客人は客人のままだ。折りを見て私に仕官を望む者は召し抱える」

 江川英吉は安堵の表情を浮かべ「感謝いたします」と返事した。




 江川英吉の協力を取り付けた俺は北条氏規への降伏を促す書状を書いた。
 武装解除を行い城を開城することを条件に、
 一つ、城主及び、城兵、その他の者の身柄の安全を保証する。
 一つ、速やかに投降すれば韮山城内における乱取りをさせない。
 一つ、北条家の家名を残せるように尽力する。
 この三点を約束すると記した。そして、俺はもう一通の書状を記した。宛先は秀吉である。大手門と砦を突破し明朝には天ヶ岳砦を奪うと記した上で北条氏規を投降させるために韮山城内への乱取りを禁止する許可が欲しいと願い出た。秀吉への書状は藤林正保に預け、彼の配下が直ぐさま秀吉が居る小田原に発った。
 俺は雑務を終えると江川砦内に設営された仮設の陣所で仮眠を取ることにした。疲労と緊張のせいで強い眠気に誘われ記憶が途切れた。その眠りも俺を呼ぶ誰かの声で意識を呼び戻された。

「殿、もう直ぐ朝駆けの時刻にございます」

 俺は仰向けのまま眠気眼で天井を虚ろな目で眺めた。

「殿、もう直ぐ朝駆けの時刻にございます。起きてください」

 俺は横向きになり声が聞こえる方に顔を向けると視線上に誰かの姿が見えた。だが、薄暗くよく見えない。その顔を俺は凝視した。


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