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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第二十三話 降伏
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った。屋敷内は本当に酷い状態になっていた。
 屋敷内に足を踏み入れると人の気配がした。ただ視線を感じた。一人や二人じゃない。そこそこの人数が隠れている気がした。屋敷内を見回すが暗くて何も見えない。

「小出相模守様、こちらにございます」

 江川英吉の案内で奥の部屋に案内された。俺は足軽に目配せして部屋の中に先に入らせることにした。部屋に入ると十畳くらい広さだった。松明の明かりだけでは部屋の中が薄暗い。だが、これで我慢するしかない。

「小出相模守様、どうぞ奥へ」

 俺は江川英吉に進められるまま上座に腰をかけた。俺の右前に柳生宗章が腰をかけた。そして、俺と対面するように江川英吉が座る。足軽達は部屋の隅に立ち灯りの役目をしていた。
 俺は徐に具足の隙間から朱印状を取り出した。戦場にも朱印状を持ってきている。内容が内容だから陣所に置いてくる訳にもいかなかった。盗まれると大変なことになるからな。

「関白殿下より私にいただいた朱印状である。謹んで検分するがいい」

 俺は厳かな口調で江川英吉に朱印状を差し出した。江川英吉はすり足で俺に近づくと平伏したまま朱印状を受け取り中身を検分した。しばし彼は朱印状を凝視し沈黙していた。

「中に疑わしき点があるか?」
「関白殿下が発給された朱印状であるかの真贋は確かめる術を私は持っておりません。しかし、あなた様が関白殿下から伊豆を与えられことはわかりました。信用させていただきます」

 江川英吉は俺に平伏した後、俺に朱印状を返した。それを俺は受け取ると懐にしまい込んだ。

「真贋を確かめずとも信用できるというのか?」
「あなた様が朱印状を偽造する利益がありません」

 江川英吉は即答した。彼が言わんとしていることは分かった。朱印状は為政者にとって権威の象徴ともいえる。それを偽造した者の末路は極刑以外にない。俺が危険を犯してまで偽造する理由がない。

「私は徳川様が新たな伊豆の主と考えておりました。徳川様も同じであったでしょう。ですが、関白殿下は、あなた様をご指名になられた」
「そう考えることが普通だろう」

 俺は言葉を切り江川英吉を見据えた。

「江川殿、返事を聞かせて欲しい」
「北条美濃守様との降伏の交渉をお引き受けいたします」

 江川英吉は俺に平伏し降伏交渉の役目を応諾した。俺は肩の荷が下りた気分になった。彼は北条氏規との降伏交渉の役目にうってつけの人物だ。北条氏規への信頼もあるだろうからな。それに俺が北条氏規に降伏をせまるより、彼の方が降伏を受け入れ易いはずだ。城に籠城する将兵の中には、俺に裏切った江川英吉のことに殺意を抱く者もいるだろうが、北条氏規はそんな愚行を決して犯さないだろう。それを見逃せば韮山城に籠城する者達の末路は皆殺ししかない。


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