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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第二十三話 降伏
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落ちるということは城が落ちると同義と見ていい。敵の進軍を阻むことが出来なくなるんだからな。

「私に美濃守様への降伏の使者となれということでしょうか?」

 俺は江川英吉に頷いた。江川英吉の表情が強張った。さっきまで主君であった北条氏規へ使者として出向けば裏切り者として殺される可能性がある。だが、その心配はないだろう。俺が使者として北条氏規に対面した時、彼は常に冷静な態度を取っていた。一時の感情に流されて使者、江川英吉、を斬ることはない。

「北条美濃守殿が貴殿を斬るとは思わない。私の使者である貴殿を斬る意味が理解できないほど、北条美濃守殿は愚かではない。それに貴殿の嫡男は徳川殿の元に仕官している。徳川殿の感情の硬化を誘うような愚行は犯さないだろう」

 俺は目を細め江川英吉に言った。江川英吉の俺を見る目に恐怖を感じている様子だった。

「江川殿、何を恐れる」

 俺は江川英吉の左肩に手をあてると、江川英吉はびくりと身体を反応させた。俺が彼の息子が徳川家康の元に居ることに気づいていることが、それ程驚くべきことなのだろうか。

「貴殿の嫡男、江川英長、は徳川家康の旗本として仕えている。少し調べれば分かることだろう。そう構えることはない。私は責めているのではない。江川殿は戦国の倣いに沿っただけ。私は貴殿に協力して欲しいだけだ」

 そこで俺は言葉を切る。

「武士にとって土地は命。『一所懸命』とも言う。貴殿も先祖伝来の土地を失うことは死に勝る苦しみであろう。北条美濃守殿が降伏すれば、それを功として関白殿下に貴殿の本領を安堵出来るように頼むことを約束しよう。私なら必ず約束を守ることができる」
「そのご自信の根拠をお聞かせくださいますか?」

 江川英吉は俺の言葉が信じれない様子だ。そうだろうな。俺のような子供に「知行を安堵してやる」と言われても信じることができるわけがない。

「私は関白殿下より直々に伊豆を領地として与えると朱印状をいただいている」
「不躾な頼みでございますが、拝見させていただくことは可能でしょうか?」
「問題無い。貴殿とゆっくりと話がしたい。その屋敷の中で話ができないか? 客人の顔を覚えておきたい」
「屋敷にございますか?」

 江川英吉は困惑気味に彼が出てきた屋敷に視線を向けた。銃弾でぼろぼろになった屋敷に灯りはない。屋敷の中に誰がいるか分からない。

「灯りならば松明がある。これを使えばいい。こんな所で朱印状を見せる訳にはいかない。貴殿も屋敷の方がこのような場所より落ち着くのではないか?」

 俺は江川英吉に足軽達が持つ松明を一瞥し言った。

「お気遣いいただき感謝いたします。汚い場所ですが、どうぞお入りください」

 俺は柳生宗章と松明を持った足軽五名を連れ屋敷の中に入
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