第四章
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「どういったものか。しかし」
「しかしとは」
「思えば可哀想な方なのだ」
その自分を死んだことにさえする江漢はだ。そうだというのだ。
「ああされるしかないのだからな」
「誰からも好かれずああしてですか」
「そうだ。人を嫌いになりだ」
「人を避ける様になられたのは」
「そうだ。自分自身に責があってもだ」
こう言うのだった。江漢について。
「実にな。そう思う」
「左様ですか」
「人は敬われることを望めばかえってよくないのかも知れない」
江漢を見てだ。大槻は思ったのだった。
「それはかえってだ」
「人から忌まれることになりますか」
「好かれることを望んでもだ」
「かえって嫌われますか」
「そういうものなのかもな。あの御仁は虚栄が強過ぎた」
それも実にだというのだ。江漢はそれによりだったというのだ。
「誇りもな。そしてそれが抑えられずだ」
「悲しいことですね」
「まことにな。ああなってはどうにもならない」
大槻は袖の下で腕を組みそのうえで難しい顔になっていた。そしてだった。
彼はその江漢を見るだけにした。彼も愛想を尽かしていたからだ。悲しいことだと思いつつも。
そしてその江漢はだ。人前に出なくなった。人が会いに来ても死んだと弟子が出て来て言うだけだった。しかしどうしても外に出なくてはならない時もある。
その時は仕方なく外に出る。だが。
彼を知る者がいて彼に声をかけてきたのだ。
「あの、先生」
「・・・・・・・・・」
江漢は無視する。その声を。
だが知人も言う。振り切ろうとする江漢に追いすがって声をかけてくる。
「司馬江漢先生ですよね。どうして挨拶してくれないんですか?」
「・・・・・・・・・」
「古い付き合いじゃないですか。どうして挨拶を」
「・・・・・・・・・」
「何か一言。お願いしますよ」
「・・・・・・馬鹿者」
ここでだ。江漢は言うのだった。
「馬鹿者が」
「えっ?」
「馬鹿者!」
遂にだ。江漢は感情を爆発させてそのうえでだ。
怒った顔で彼の方を振り向いてだ。こう怒鳴ったのだった。
「死人が挨拶なぞするものか!」
こう言ってそのままそそくさとその場を後にした。後には呆然となる知人だけが残った。そしてそれから後になって死人は本当の死人になってしまった。本望だっただろうか。
死人 完
2012・5・30
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