5. 海に出たことのない艦娘(2)
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」
「後ろ! 後ろ振り返って!!」
肌がむき出しの私の右肩をぺちぺちと叩き、私に反転をせがむゆきおに促され、私は身体を反転させる。目の前にあったのは、豆粒ほどの小ささになってしまった、私たちの鎮守府と、その周辺地域の光景だ。
「見て! 鎮守府があんなに小さい!!」
「へへ。結構なスピードで走ったからなー」
「すごい! すごい涼風!!」
「あたぼうよぉ!!」
ゆきおに『スゴい』とほめられ、私はつい得意になり、ゆきおの足を支える左手を離し、その手で自分の鼻の下をすりすりとこすった。その間もゆきおは興奮気味に周囲を見回していて、ここから見える、こちらに飛び出た半島を指差していた。
「涼風! 涼風!! あそこ、伊豆だ! 伊豆半島だよ!! てことは、あっちが浦賀で……あそこは駿河湾かな!?」
私たちの周囲の、いたるところを指差しては、それがどこかを興奮気味に教えてくれるゆきお。いつもなら、遠征の時のただの通り道でしかなかったこの航路が、ゆきおと一緒にいるだけで、ドキドキが至るところに隠された、この上なく楽しい航路へと変貌した。
「んじゃゆきお! あっちはどこだ?」
「あっちは御前崎! もうちょっと西に行ったら、別の鎮守府があるはずだよ!!」
「隣の鎮守府なんてすごく離れてるように感じるけど、こうやって見るとあたいらの鎮守府から、そう離れてないんだなー」
「そうさ! だってここから見えるもん!!」
その鎮守府の場所を探してみたが、私たちがいる場所からは、距離が離れすぎていてよく分からない。でもゆきおがそういうのだから、きっとその辺りに、隣の鎮守府はあるのだろう。
「ねえ涼風!」
「んー?」
「僕はね! 伊豆半島の向こう側から来たんだ!!」
ゆきおは笑顔でそう教えてくれ、さっき教えてくれた伊豆半島の、その向こう側を指差した。それが具体的に何という場所なのかは教えてくれなかったが、あっちの方角からすると、神奈川とか東京とか、その辺なのだろうか。海に出たことがないと言っていたから、内陸なのかもしれない。
「涼風は?」
「へ?」
私の胸に、たった一拍だけの、酷く強烈で、とても気持ち悪い心臓の鼓動が、ドクンと走り抜けた。
「涼風は、今の鎮守府にずっといるの? 前はどこかの鎮守府にいたの?」
「あたいはー……」
ゆきおの右足を支える私の右手から、少しずつ力が抜けてきているのが分かった。昔のことを思い出していることをゆきおに悟られないよう、私は努めて、大きい声で返事を返す。
「……あたいは、ずっと今のところにいた!!」
ごめんゆきお……私は今、ウソをついた。
「そっかー。でも、ずっと同じ場所にいられるってのはいいね!」
「そっか?」
「そうだよ!」
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