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俺の涼風 ぼくと涼風
5. 海に出たことのない艦娘(2)
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!!」
「てぇぇぇええやんでぇぇええええ!!!」

 私の背後では、ゆきおがとんでもない悲鳴を上げながら私のことを制止するが、それはあえて無視する。久しぶりのトップスピードで水面を走り、みるみる沖に出てくる私達。ゆきおの両手が、必死に私の肩を掴んでるのが分かる。

「……ッく……!!」

 私の耳元で、時々ゆきおの声が聞こえた。かなりの力を込めて、私にしがみついているようだ。猛スピードで走る私に振り落とされまいと、私の身体に必死にしがみつくゆきおの両腕からは、ぽかぽかと心地いいゆきおの体温が、カーディガン越しに感じられた。



 ある程度沖に出たところで、私は少しずつ主機の回転数を下げる。次第に私達はスピードが落ち、自転車ほどのスピードまで落ちて……やがて私たちは、目の前に水平線がどこまでも広がる、この大海原で静止した。

 ゆきおは相変わらず私の身体にしがみついている。私の右耳にほっぺたを押し付けているゆきおは、どうやら目をギュッと閉じているようだ。おかげで、今目の前に広がる、水平線が遠くの遠くまで続くこの光景に、まだ気がついてないらしい。

「……っ!!」
「おーいゆきおー」
「……っ!」
「ゆーきーおー」
「……ん、んん? 涼風、止まった?」
「おう」

 ゆきおのほっぺたが、私の項から離れた。そしてその直後……

「うわぁ……」

 私の右耳のすぐそばで、ゆきおは温かくこそばゆい吐息とともに、感嘆のため息をもらした。

「……スゴい……スゴい……すごい!!」

 私の身体を、ゆきおの両腕が再びしめつけた。でもそれは、さっきまでのような、振り落とされないための必死の抵抗ではなく、目の前の美しい光景に対する、ゆきおの感動の反応だった。

「すごい! こんなの初めて見た!!」

 ゆきおが私の身体にしがみつくのをやめ、背筋をピンと伸ばして、より遠くを見ようと背のびをした。でも、どれだけ遥か彼方を見つめても、その先に続くのは水平線。遮るものは何もなく、目の前に広がるのは、秋のお日様の光を反射して、キラキラと美しく輝く水面。

「どこまで続いてるんだろう? 涼風! この水平線、どこまで続いてるのかな!?」
「ずーっと先までだ! ずーっと先の、そのまたずーっと先の先まで、ずーっとずーっと続いてるんだ!!」
「そっかー! 何もないのか!! 僕達の前には、遮るものはなにもないんだ!!」

 私の肩から右手を離し、その手でひさしを作って遠くを見つめるゆきおは、ひどく興奮しているようだった。周囲をキョロキョロと見回して、いつもあの小さな部屋で静かに本を読んでいる姿とは、似ても似つかぬはしゃぎっぷりで、水平線の端から端をひたすら眺め続けていた。

「!? 涼風!!」
「ん? どしたー?
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