第三章
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それで即座に止めようとする。だが、だった。
江漢の方からだ。こう言ってきたのである。
「違う、死ぬとは言ってもだ」
「?一体」
「死亡届を出せ。それでよい」
「あの、それでは先生は」
「生きておる。しかし死んでいれば誰とも会うまい」
いい加減誰からも敬われず嫌われているからだ。人付き合いが煩わしくなったのだ。それが極限にまで達してこう言いだしたという次第だ。
「だからじゃ。わしは死ぬ」
「そしてお亡くなりになられて」
「人には会わぬ。よいな」
「そんな届を受け取ってくれるでしょうか」
檀家の寺がだというのだ。弟子はそのことを疑問に思った。
「それ奉行所も何と言うか」
「いいのだ。御主はわしの言う通りにせよ」
有無を言わせない口調だった。
「よいな。弟子なのだからな」
「はあ。それなら言われた通りにしますが」
弟子はこう答えるしかなかった。そしてだった。
死亡届を出すだけだった。その届出を見た檀家の寺もそれを見た奉行所の面々もひっくり返った。それで戸惑いながらこう口々に言うのだった。
「あの先生は何を考えているのだ」
「生きているのに死んだだと!?」
「おかしなことを言うものだ」
「どういったお考えなのだ」
誰もが奇行ここに極まれリと思った。
「前からおかしなところが多かったが」
「生きているのに死んでいるだと」
「そんなことを言ってどうするのだ」
「どういうおつもりなのか」
「しかしな」
だが死亡届が来ていて何度も出してくる。それがあまりにもしつこい為だ。
檀家の寺も奉行所も受け取るしかなかった。こうして江漢は死んだことになった。
この話を聞いてだ。大槻はまた弟子に言った。今度はほとほと呆れた顔になっていた。
彼は腕を組んでだ。それで言うのだった。
「いや、これは幾ら何でもな」
「わかりませぬか」
「他にもわからないことをする御仁だったがそれでもだ」
「今度ばかりはですか」
「人付き合いが煩わしくなったのはわかるが」
「しかしご自身を死んだとされるのは」
「奇怪に過ぎる」
あまりにもだというのだ。
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