第五章 Over World
ここに、私がいるから
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お姉ちゃんは本当に私だったの!?今までの子だったの!?違うでしょ?あなたの知るお姉ちゃんは、全然違うはずでしょ!?だから何度も失敗した。何度もやり直した!!だって、あなたのお姉ちゃんはどこにもいないから!!」
「そんな・・・・ことない!!!」
再び少女の手に力が入る。ミシミシと骨が軋む。
だが、彼女はもうその苦しさを感じていないかった。
「なくない!!だってそのお姉ちゃんは、あなたが知っているお姉ちゃんであって私たちじゃないから!!!」
「私の・・・・?」
「いくら外捜したって、見つかるはずがないじゃない!!だって、それは貴方の記憶の中にしかないんだから!!!」
「私の・・・・記憶・・・・」
「それを誰かの押し付けたって、絶対に無理が来るにきまってる!!」
少女の手が、彼女の首を放した。
するりと抜け、彼女が降りる。
「でもあなたはその記憶を封じてしまった。それじゃ、思い出せるはずがないでしょ!?」
「だけど辛いことばっかりだよ!?そんなの思い出したくないよ!!」
嫌だ嫌だ、と頭を抱えて泣き出してしまう少女。
だが、その少女を唯子はそっと抱え、抱きしめる。
「大丈夫。怖くても、辛くても、それは記憶だから」
「え・・・・・」
「辛いことは、終わっちゃったの。だから記憶っていうんでしょ?」
しかしそれでも「怖いよ」としがみついて震えだす少女。
その肩を掴んで、言い聞かせるように優しく諭す。
「ダメだよ・・・・その辛いのも合わせて、全部あなたの思い出なんだから。そんな穴だらけで、ちゃんとしたお姉ちゃんを思い出せないよ?」
「辛いのも・・・必要なの?」
「・・・・辛いことは確かに嫌。絶対にあってほしくない。でも、それがなかったことにするのは、ダメ」
それは、自分の否定だから。
確かに辛かった。
涙が出るほど、辛かった。
それは苦しかった。
歯を食いしばるほど、苦しかった。
痛いほどに悲しかった。
胸が張り裂けそうなほど、悲しかった。
だけどそれから目を背けたら、今の自分は自分じゃない。
それを全部乗り越えてきたのが、今の自分だから。
大好きな自分の人が、変えられてしまう。
自分の街が、その人の手で焼き落とされてしまう。
身代わりで自分の身体を差し出したのに、それも無駄になってしまう。
その人を取り戻すために、必死になって戦った。
辛く、苦しく、そして悲しいことがあった。
もう涙も枯れるほど泣いた。
弱音も吐いた。
もう二度と取り戻せないモノを、失ってきたことがある。
それでも、今の自分には「今」がある。
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