第五章 Over World
ここに、私がいるから
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切っていく。
だがいかんせん、小さな少年の力だ。
幾らはものがあるとはいえ、親指ほどの太さもある荒縄を切るには心許ない。
一方少女とは言うと、唯子たちの方から大人の木を逸らすために必死に叫んでいた。
「あのお姉ちゃんは悪くないの!!」
「いいんだよ。大丈夫。もう怖くないからね」
「お姉ちゃんを殺さないで!!」
「あれは悪魔なんだ。神父様もあいつのせいで」
「お姉ちゃんは何もしてないよ!!」
「だからね・・・・・・」
少女はみんなを引き付ける。
もし一人でも唯子の方を見れば、少年たちも一緒に見つかってしまう。
そうすれば終わりだ。
少女は叫ぶ。
一生懸命に叫ぶ。
大人たちに服を掴み、引っ張り、縋り付く。
「あれはただの病気だよ!!お姉ちゃんは何も」
「えぇい、うるさいぞガキ!!!」
「あぅっ!?」
だが、そうして必死になる少女を、ついに一人の村人が払い倒した。
「うるさい奴だ・・・いいか!?あの女が来てから何もかもおかしくなった!!あの女は悪魔なんだよ!!」
「違うよ!!お姉ちゃんは優しかったよ!!みんな一緒にいたじゃない!!」
「ああ!まんまと騙されたよ!!」
「お姉ちゃんは悪魔じゃない!!」
「黙れ!!!」
少女の叫びを、それ以上の怒声で掻き消して唸りを上げる村人。
が、ふと何かに気付いたのか、憤怒の表情が、嫌悪の物へと変化して行った。
震える指で少女を指し、ほんの少しの慄きを込めてそいつが叫んだ。
「そ、そうか!!みんな!コイツも悪魔にやられちまったんだ!!!」
どう考えても、合理的でないその一言。
だが、今この状況に置いて、それは最大の効果を発揮する。
「え・・・・・!?」
自分を取り囲む人々の気配が、一瞬にして切り替わる。
ついさっきまで自分を心配して集まってきてくれた人たちが、今度は自分を追い詰めるように睨みつけてくるのだ。
その変化に、少女は頭がついて行けない。
いままで自分と護ろうと温かく包んでいたそれが、一瞬にして自分を突き刺す刃のように変わったのだから。
「――――」
声にならない声を発する。
瞬間、男たちは少女の身体に掴みかかった。
「な、なに・・・・・アぐ・・・・」
その力は、とても少女に向けるようなものではなかった。
引き千切ぎるかのごとく、周囲の指が掴んでくる。
締め上げるかのごとく、周囲の手は握りしめてくる。
そのまま握り潰してしまおうとするかのごとく、大人たちは一人の小さな「悪魔」に掴みかかって行っていた。
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