第94話 終焉
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とか、あの時は)
西郷は、沖田が転生したときにその場にいた。
あの恐怖の場所で沖田復活を目のあたりにしていた。そして、その場にいたのが、土佐の武智半平太と天草四朗だった。
もしかしたら、沖田も天草の指を斬ったのは演技だったのかもしれないと西郷はそう思えた。
西郷は、胸元に隠していた天草の指を握ってみた。
すると、その指は粉々に砕け砂のようになって西郷の掌から崩れ落ちていってしまった。
「土方君、天草はこの西郷に何をさせたかったのであろうか?」
立ち去ろうとしている土方に向かって西郷は問うた。
「さぁ、今となってはどうでもよいことだと、私は思います」
土方が言い終わると、銃声が後ろに聞こえた。
銃弾が数発、西郷を貫いていた。
「うぐっ」
と篭ったうめき声をあげて西郷が片膝をついて倒れかけていた。
「どうやら、ここまでのようでごわすな。一つお願いがあるのだが、土方君、昔の誼で介錯を頼まれてくれまいか」
西郷の眼に薄く涙がにじんでいた。が、その顔は、晴れやかでにこりと微笑んでいた。
「わかりました、私でよければ介錯仕る」
土方は、西郷の背後に立ち、刀を振り上げた。
西郷は、来ているものをはだけ、その恰幅のある腹を露わにして、静かに脇差を抜いた。そして、躊躇いもなく自らの腹に突き立て、腹を割り始めた。
「土方さ、介錯を」
西郷の苦しそうな声を上げて土方に介錯を頼んだ。
土方は、一気に刀を振りおろし西郷の首をはねた。
西暦1877年9月 享年51歳。
幕末から明治へと活躍した巨星・西郷隆盛は、戦いの中で死んでいった。そして、土方は、西郷の最後を見届けると風のように消えて行ってしまったのだった。
大山は後悔していた。
よもや、魔界衆全てが全滅し、天草まで倒され、原城まで崩れ去った。
大山は、原城崩壊のどさくさに紛れて脱出をはかったが、なんなく政府軍に捕えられた。
もちろん、極刑は免れることはなかった。
(西郷さんについたのが間違いだったのか?)
大山綱良。世が世なら剣豪として生きることが出来たかもしれなかった。
そして、西郷の乱が収まり、その約1年後に大久保利通が紀尾井坂で暗殺された。また、その4年後、幕末の怪物・岩倉具視が、日本初の憲法・大日本憲法成立前に病死した。
伊藤博文もハルビンにて暗殺された。
幕末を駆け抜けた志士たちは、天に地に散り、時代の彼方えと伝説を残して去って行った。
そして、日本という国は、幾度となく起こった天災や戦争を乗り越えて今に至っている。が、そこに天草四朗と柳生十兵衛との戦いが、あったことは誰も知る由はない。
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