4. 海に出たことのない艦娘(1)
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ことがないのは、別におかしいことではないと思う。内陸に住んでいたら海に出る機会なんてないだろうし。こうして海のそばに住んでいたとしても、ゆきおのように周囲から隠れて生活しているのなら、海に出たことないとしても、おかしなことではないだろう。
でも、なぜだろう。窓を閉じて踵を返し、自身のベッドに戻っていくゆきおの背中が、私にはとてもさみしそうに見えたのは。
「艦娘になる前に、一度は海に出てみたいんだけど……」
「ゆきお……」
「でも仕方ないか。僕はここに隠れてなきゃいけないから」
なぜだろう。今ベッドに腰掛けた私の友達が……私の、とても細っこくて小さな、大切な友達の背中が、いつもよりも小さく、そして悲しく見えるのは。
「……」
私の足が、勝手に動いた。どすどすと足音を響かせ、大股で元気よく、そして足早にゆきおの元に移動した私は、次の瞬間、ゆきおの右手首を、カーディガン越しに力強く、握っていた。
「?」
「ゆきおっ」
「ん?」
私は、『どうしたの?』とこちらに語りかけるゆきおの眼差しをまっすぐに、目をそらさずに見つめ、そして口走った。
「これから海に出ようぜ!!」
ゆきおの目が、点になった。
「え……?」
「だから!! これから一緒に、海に出ようぜ!!」
未だ目を白黒させている友達の手を引っ張り、私は強引にゆきおを立たせる。
「ぉおっ?」
「ほいっ」
突然のことで、立ち上がったゆきおは勢いを殺せず、私に身体を預けてきた。そのゆきおの身体をはっしと受け止めた私の顔とゆきおの顔が、とても近づいた。
「つ、連れて行ってくれるの? ほんとに?」
「おうっ!」
「でも……船なんて、運転……」
ゆきおは呆気にとられているのか、ポカンとした表情で私の顔を見つめてる。ゆきおの身体から、消毒液の香りがほんのりと私の鼻に届いた。友達の匂いが、私の心にさらに火をつけた。
「てやんでぃっ! ゆきお、あたいを誰だと思ってんだ!!」
私は胸を張り、右手の親指を自分に向け、今、目の前にいる友達に、私が何者であるのかを、ここぞとばかりに誇った。
「お前の先輩! 改白露型の駆逐艦だぜっ!!」
この瞬間、私をポカンと見つめていたゆきおの眼差しが、お日様のように輝き始めた。
私はゆきおの手首から手を離し、振り返って窓に駆け寄ると、改めて外の天気を確認した。今日は快晴。風は少々冷たいが、海を見れば分かるように、日差しは強くてぽかぽかと暖かい。波も穏やか。今なら何の問題もなくいける。再びゆきおの元に戻り、ゆきおの両肩を掴んで正対した。
「行こうぜ! ゆきお!!」
うつむき、悩む素振りを見せたゆきお。でもやがて右手をギュッと握りしめ、山吹
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