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俺の涼風 ぼくと涼風
4. 海に出たことのない艦娘(1)
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ころでゆきお、艦種は分かったのか?」
「分からない……でも、僕の体格と年齢で考えたら、多分駆逐艦……それか、大きくても軽巡洋艦か……その辺りだと思う」
「そっか。もし白露型だったら、あたいと姉弟になるな!」
「うん! その時はよろしく!」

 今、目の前でほっぺたを少しだけ赤くしながら、自分の艦種が何かを楽しそうに話すゆきおに対し、『そんな話は聞いたことがない』とは、私自身言いたくないし、言えなかった。私の友達のゆきおが言うんだ。きっと、男の艦娘は存在するんだ。そしてゆきおは、男の艦娘第一号として、いつの日か艤装をつけて、私と共に遠征に出る日が来るんだろう。

 私とゆきおがそうして会話を続けている時だった。窓の方から、シャーっという、カーテンが走る音が聞こえた。

「ん?」
「お?」

 私とゆきおがタイミングを揃えて、二人で窓の方を振り返る。空気の入れ替えのためだろうか。以前に私たちが紙飛行機を飛ばした窓は、全開に開けられている。その窓から、冷たくて少々強い風が吹き込んできていて、半開きになっていたカーテンが完全に開いていた。外のお日様の光に照らされたカーテンのレースが、真っ白よりクリーム色に近い色に輝いていた。

「あ……そろそろ窓閉めなきゃ」

 ゆきおが寒そうに両腕をさすり、立ち上がって窓に向かう。何やら北風に立ち向かう小さな旅人のように見えて、その後ろ姿がなんだかおかしく、そしてその小さな背中が、なんだかとても頼りなく見えた。私も立ち上がり、ゆきおの背中に手を当てて、この小さな友達を支えてあげることにする。

「ん?」
「へへ」
「ありがと。涼風の手、あったかいね」

 そのまま二人で、窓のそばまで歩み寄る。窓の取っ手に手をかけたゆきおは、そこから見える、キラキラと輝く大海原に目をやった。

「……」
「……?」

 そのままゆきおの手が止まる。海をジッと眺めるゆきおの目は、なんだか、水平線のはるか彼方をジッと見つめているような、そんな気がした。

「……ゆきお?」

 そんなゆきおの横顔が、なんだかとてもさみしそうで。でも、なんだか邪魔をしては行けないような気がして。

「……どうかしたか?」

 私はゆきおのカーディガンの袖を控えめにつまみ、小さな声で問いかける。しばらく海を眺めたゆきおは、私の声にやっと反応し、私に振り向いて、ちょっと悲しそうな、泣きそうな笑顔を浮かべていた。

「……僕ね。海に出たことないんだ」
「え……」
「おかしいよね。艦娘なのにね」

 眉をハの字型にして、そう苦笑いながら、ゆきおは窓を閉じていた。その途端、この部屋から潮風の香りが途切れ、ゆきおの身体から、ほんのりと消毒薬の香りが漂い始めた。

 実際、ゆきおぐらいの年齢で海に出た
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