4. 海に出たことのない艦娘(1)
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い。しまった……鳳翔さんには『ゆきおの部屋に行く』としか言わなかったから、二人分しかくれなかったのか……
「ていとくー」
「ん?」
「もうひとつあるけど、提督、食うか?」
ちょっと残念ではあるが、ここは上官である提督に譲るべきだ。私は(本当は私が食べたいんだけど)紙袋からもうひとつの豆大福を取り出し、それを(仕方なく)提督に渡そうと、豆大福を持つ手を、提督に向けて伸ばした。
だが提督は、そんな私に対し、手の平をこちらに向けて制止した。首を横に振って、私に対して、とっても柔らかい微笑みを向ける。それはまるで、先ほどゆきおに向けていたような、優しいものだった。
「いいよ。お前も食べたいだろ?」
「いいのか?」
「俺、甘いの苦手だしな」
そこまで言ってくれるのなら、この豆大福は素直に私が食べることにしよう。手に取った豆大福をしげしげと眺め、これからこの豆大福が私の口の中にもたらしてくれる幸せを思い浮かべながら、私はおもむろにその豆大福を口に入れた。
「ぅぉぁああーん……はぐっ」
「んー……はぐっ……」
「もぐもぐ……んー……」
「もぐもぐ……んー……」
「「ごきゅっ……ほわぁー……幸せだー……」」
「ぶほっ」
私とゆきおが、まったく同じ表情で、まったく同じ素振りを見せながら、まったく同じセリフを口走ってしまう。その様子を横で見ていた提督は勢い良く吹き笑いしていたが、そんなことは気にしない。
もう一度口に運び、その幸せを口いっぱいで堪能する。つぶあんの甘みは私の心に幸せを届け、ほんのり感じる塩気がその幸せを何倍にもふくらませてくれる。
「ねー……もぐもぐ……涼風?」
「んー? どしたー? もぐもぐ……んー……」
「豆とあんこって、二つで一つだよね」
「だなぁ……んー……豆大福を知ったら、あんこだけじゃ物足りないよな」
「うん……んー……二人で一人だよね……」
「うん。まさにそんな感じ……んー……」
二人してもっちもちのほっぺたをもにゅもにゅと動かし、そんな意味不明なことを口走ってしまう。その様子を見て苦笑いを浮かべていた提督は気にせず、私とゆきおはしばらくの間、あんこと赤えんどう豆の塩気が織りなす幸せの相乗効果に、しばらくの間夢中になった。
その幸せの余韻の向こう側で、トントンという控えめのノック音が聞こえた。幸せのぬるま湯に浸りきっている私とゆきおに代わり、提督が『おーう。どうぞー』と返事をしていた。
「邪魔するぜー」
ガチャリと開いたドアから入ってきたのは、摩耶姉ちゃんだ。摩耶姉ちゃんはつきたてのお餅のようにとろけきっている私とゆきおを見て、ブフッと吹き出していた。提督と同じく、幸せに浸りきっている私たちが可笑しいようだ。そんなことは全く気に
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