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俺の涼風 ぼくと涼風
4. 海に出たことのない艦娘(1)
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て、匂いで何かおやつを持ってきたことがバレたか?

「これか? 鳳翔さんからもらってきた! 豆大福だって!」
「へー。鳳翔の豆大福、おいしいもんな」

 早速紙袋を開けて、中の豆大福を二人に渡そうとした、その時。

「……」

 意外と、ゆきおが浮かない顔をしていることに気付いた。少しうつむき、上目遣いで自分の父親である提督の様子を伺っている。

「……父さん」

 どんよりとした浮かない表情のゆきおが、ぽそりとそうつぶやいた。なんだろうこの感じ……持ってきたらダメだったのかな……。

「いいぞ。鳳翔の豆大福なら大丈夫だろう」

 ゆきおの伺いに対する、提督の答えはOKだった。『やった!』の歓喜の声とともにゆきおの顔に生気が戻り、雪緒は途端に鼻の穴を広げ、フンフンと言いながら私に大福の催促をはじめる。

「すずかぜっ」
「お、おお?」
「早くっ。早く豆大福っ!!」
「あっ。こら待てゆきおっ!」

 私が持っている紙袋の中を覗き、必死に中をまさぐろうとして、私にまとわりついてくるゆきお。それを必死に制止しようとする私とゆきおとの、果てしなくしょぼい攻防戦が幕を開けた。

「こらゆきおっ! あたいが出すからっ!!」
「だったら早く僕によこすんだっ!!」
「落ち着け! 落ち着けって!!」

 是が非でも紙袋の中に手を入れたいゆきおと、それを阻止したい私との、子犬同士のようなじゃれつきがしばらく続いた。しかし、力が弱く身体も小さいゆきおが私に敵うはずもなく、ゆきおはすぐに息が上がりへばっていた。艦娘をなめるなっ。

「ゼハー……ゼハー……」
「やーいやーい。艦娘のあたいに勝つなんて10年早いんだよゆきおー!」
「だ、大福ぅうう……」
「甘いの大好きだもんな雪緒……」

 仕方ない……珍しく獣のような顔になりながら、口からヨダレを垂らしているゆきおが、段々不憫になってきた。隣で苦笑いしながら一部始終を見ている提督はとりあえず置いておいて……私は紙袋の中に手を突っ込み、中の豆大福を取り出した。

「ほい、ゆきお」
「うがー!!」

 今までに聞いたこと無いような咆哮を上げたゆきおは、私の手の平から大福を奪い去り、そしてぱくりと口に運ぶ。その途端ゆきおのほっぺたがこの大福のように柔らかくもちもちになり、まるでお風呂に入って油断しきってる摩耶姉ちゃんみたいな眼差しになった。もごもごと口を動かし、豆大福の美味しさを堪能するゆきおは、今まで見たどのゆきおよりも、ゆるんでだらしなく見えた。

「んー……おいし……幸せだ〜……」

 そんな雪緒を見ていたら、私も食べたくて仕方なくなってくる。私の全身が豆大福を欲し始めたので、私は紙袋の中に再び手を伸ばした。だが、中の豆大福は、あとひとつしかな
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