リレイションシップ
クイーン・プロモーション
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「本当に来たのね。」
執務室の入口の前で、腕を組み、通路の壁に背を預けているサイドテールの青い装束のよく似合う女性がそこにいる。
「嘘か真か。瑞鶴から聞いて待っていたら、本当にその格好をしている貴方を出迎えることになるとはね。」
正規空母、加賀。
壬生森が指揮していた艦娘の中では、筆頭である叢雲と肩を並べる練度の艦娘は彼女と龍驤しかいない。
しかし、彼女は今は壬生森の指揮下にはない。
彼女は、今は教官として、どこにも属さずに鎮守府を気ままに回る日々を過ごしている。
「加賀、来ていたのか。」
「えぇ、私も存外に暇なの。貴方以上に隠居生活が長いから。」
加賀は、ささやかな微笑みをもって、壬生森に返事をする。
かつて江田島で教鞭を振るっていた時期すら、彼女にとっては隠居の内らしい。
「今日も瑞鶴達に教鞭を?」
「いいえ、そこにいる司令代理からの呼び出しよ。古風な書状に精緻な達筆、こんなものを送ってくる酔狂に私も乗ることにしたの。」
加賀が胸当ての内からわざわざ見せつけるように出して、ひらひらと振ったのは、時代錯誤な三折りに上下を更に折って止めたような白い包み。
「中身は?」
「パーティーの招待状。」
「パーティーの招待状、ね。」
壬生森と叢雲はこの時点で中身を改めるべきだった、と後に後悔することになる。
壬生森は、「まるでどこかの医療ドラマみたいだな」と思いながら、加賀も含めた4人の艦娘を伴って、執務室に入る。
熊野に実務の全てを任せ、永田町の地下を根城としてから、何十年ぶりか。
扉の向こうには、カーペットとカーテン、テーブルクロスが真新しいこと以外、部屋の中の全てが最後に執務室を後にしたあの日のままで。
「いつでも、貴方が帰れるように。私はそれだけを願っていました。」
熊野が壬生森の先を歩き、執務室の奥にある壬生森もそこそこに気に入っていたアンティークの執務机に手を向ける。
「あとは、貴方がそこに座る。それで、全てが始まりますわ。」
「全てが、ねぇ。」
壬生森はしぶしぶ、というには少しだけ足取り早く、自分で椅子を引き、確かめるようにゆっくりと座る。
そして、執務机の上に置かれたやたらと格式張った書類の一番下に、壬生森はサインをする。
「魚釣島ニライカナイ基地、“特殊警備部”『蒼征』への着任完了の署名、これで全てか?」
「いいえ。貴方がすべきことは、あとひとつ。」
壬生森から受け取った紙を熊野は金の書簡筒に丸めて入れ、蓋を嵌め込み手の平から転がして放り浮かせる。
転げ落ちた書簡筒は、くるりと回って机の天板を叩くすれすれで仄かな光を残して溶け消える。
鎮守府が鎮守府として機能するためのトリガーが、引かれる。
その上で「提
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ