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第七章
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「女性を狙って手首を次々に切り落とすなぞ。まるで特殊部隊です」
「そのことですか」
 役がだった。宮里の今の言葉に応えた。
「狂気に陥っているならば心の歯止めが利かなくなりますね」
「あっ、そうですね」
 言われて宮里も気付いた。これも精神科医故だった。
「身体の使い方も歯止めが利かなくなり」
「動きも通常のものではなくなりますね」
「そうです。だからあの老人もです」
「その身体能力を極限まで出したのですか」
「老人であろうともその身体能力を極限まで出せば」
 まさにそうなればだというのだ。
「女性を襲い傷つける程度はできます」
「そういえば刃物にクロロフォルムも持っていましたね」
「そうしたものも使いますので」
「そういうことですか」
「そうです。狂気に陥った人間は普通ではないのです」
 それは心だけのことではないというのだ。身体もまただというのだ。
「ああなるのです」
「とにかく。奥さんが死んでその指を求めての犯行ってことですね」
 本郷は事件の詳細をわかりやすく一言で話した。
「頭がおかしくなって」
「簡単に言えばそうなりますね。ですが」
「はい。碌でもない事件でした」
 本郷は首を捻りながら宮里に述べた。
「本当に死人が出なかっただけましですよ」
「それで犯人ですが」
 肝心の犯人がどうなるかはだ。役が二人に話した。
「あれだけの事件を起こしましたが」
「ですが精神が明らかに通常ではなかったので」 
 宮里が話す。狂気に陥っていたと。
「ですから。実刑になることはです」
「ないですね」
「それは」
「日本では精神に異常があると判断された場合実刑に問われることは稀ですから」
 宮里も二人もわかっていた。このことは。
「おそらく精神病院に入院してそこで」
「終わりですね」
「心神喪失により無罪ということになって」
 二人も話す。そうなることはわかっていた。そして三人の予想は当たった。
 取り調べの中で警察は老人を心神喪失と判断し弁護士もそう主張した。それによって老人は刑事責任を問われることがなくなり無罪となった。だが。
 明らかに精神に異常をきたしていたが為に完全に自由にはならなかった。それでだ。
 精神病院に収監されそこで余生を過ごすことになった。その病室、厳重に隔離された部屋を覗き窓から見てだ。本郷と役は共にいる宮里に述べた。
「何度も見てるんですがね、こうした結末は」
「それでもです」
「後味のいいものじゃないですね」
「私も同感です」
「はい。それは私も同じです」
 宮里もだ。こう二人に返す。
 そして捜査とその後の取り調べの時とは違い苦い顔になってだ。
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