1. 『俺だけの涼風』
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『ソーリーネ……涼風……』
彼女は、私の目の前で血を吐き、申し訳無さそうに微笑みながら、沈んだ。
『涼風ちゃんは大丈夫? なら……よかった……』
彼女は、胸に風穴が開いたまま、私をまっすぐ見据え、笑顔で沈んだ。
『すまん涼風……私は、ここまでだ……』
彼女は、体中に数え切れない徹甲弾が突き刺さり、力尽き倒れ伏した後、穏やかな笑顔を私に向けながら、沈んでいった。
『あぶな……』
彼女は、私の前に身を投げ出した途端、直撃した三式弾で全身が砕かれ、沈んでいった。
『みんな……みんなぁ……!!』
私と共にいた艦隊の仲間たちは、私ともう一人を残して、皆、沈んだ。取り残された私は、たった一人、海面に浮かんでいる、沈んでいった仲間たちの残骸をかき集め、それらを両手で強く抱きしめた。そして、真っ赤な大空を涙が止まらない瞳で睨み、喉が裂けることもいとわず、心に渦巻く疑問を叫んだ。
『提督! なんでだ!? なんでみんなにあたいを守らせるんだ!?』
周囲に浮かぶ肉片が、さきほどの戦いの凄惨さを物語っていた。その中のどれかは深海棲艦のもので、そのどれかは、先程まで私と談笑し、私と共に敵と戦い、そして私に微笑みを向けていた仲間のものだ。でもそれらは海面で交じり合い、もはやどれが誰のものであるのかは、すでに判別出来ない状況だった。
『なんでって……』
沈んだ仲間の艤装の残骸を抱え、海面に膝をついて泣き叫ぶ私の視線のその先に、ここにいるはずのない、彼の後ろ姿が見えた。私は空を睨むのをやめ、海面に立つその男……私たちの提督、ノムラの背中をキッと睨んだ。
『提督! なんでだよ!! なんでみんな、あたいをかばって沈むんだよ!!』
『……決まってるじゃないか』
私の怒号を一身に受けたノムラは、ゆっくりと振り返る。
『涼風を守るためだよ』
振り返り、目を逸らさず、まっすぐに私を見つめるノムラの笑顔は、左に傾き、そして醜く歪んでいた。裂けるほどに口角を持ち上げ、瞳孔が開いた目を限界まで見開き、ニチャリと音を立てて開かれたノムラの口は、私に対し、呪いを吐いた。
『俺の……俺だけの涼風を……守るためだよぉおオオオ……』
『てい……と……』
『涼風ぇ……俺の涼風……俺だけの……涼風ぇぇぇえええ』
『……ッ!』
『また行こうなぁ涼風ぇ』
『……イヤだ……イヤだ……ッ』
『俺とお前で、戦果を上げようなぁ。お前が危なくないように……みんなをいっぱい、連れて行こうなぁ』
『やめてくれ提督!! もうやめてくれよぉおオオ!!!』
呪いの言葉を吐くノムラに対し、私は必死に拒絶の意を表した。抱えていた艤装を海面に落とし、震える両足でなんとか立ち上がり、恐怖ですくむ身体を奮い
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