第五章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「これだけならよくある話ですね」
「全くだな」
その通りだとだ。役も本郷に応える。三人で一つの席にそれぞれ向かい合って座っている。
その中でだ。こう言うのである。
「しかしだ。やったことがだ」
「それが問題ですね」
「まさに」
「その通りです」
役は宮里の顔を見て言葉を返した。
「これからです。しかし」
「そうですね。普通こうした事件を起こすっていったら」
「若い男ですね」
本郷と宮里はこう役に返した。
「けれど今はお爺ちゃんですかあね」
「そこが違いますね」
「はい、そこが違いますね」
役も言う。
「本当に」
「とりあえずです」
宮里は精神科医らしく冷静に述べていく。
「犯人、患者でもありますが」
「その話を聞いていきますか」
「今は」
「そうしましょう」
こう話してだ。そのうえでだった。
三人はその犯人、裕福な老人の話を聞くことにした。まずはその老人の経歴を本人から聞くことにした。そうして聞いていて三人が見たものは。
老人は視線が定まっていない。虚ろな目をしている。
そしてその虚ろな目で語る言葉もだ。実に抑揚のないものだった。
その抑揚のない言葉でだ。老人は三人に語った。
「指が好きなんだよ」
「何故好きなんですか?」
「あれの指だからね」
老人は診察をする宮里に語る。
「女房の指だからね」
「奥さんの?」
「ほら、そこにいるじゃないか」
あらぬ方を指差しての言葉だった。宮里の左隣だ。
「そこにね。ちゃんといて」
「奥さんが言っておられるのですか?」
「いや、女房の指がないんだよ」
「奥さんの指が」
「そうだよ。ないんだよ」
あらぬ方を指差しながらの言葉だった。
「それで指を欲しい欲しいって言っててね」
「奥さんが指を欲しがっているのですか」
「そうだよ。女房の指は奇麗だったんだ」
こう言っていく。虚ろな顔で。
「だから指をあげないといけないんだよ。女房に」
「しかし貴方は指を」
「指をどうしたっていうんだい?」
「お部屋に飾っていましたね」
率直にだ。老人に彼のその犯行について問い返した。
「そうされていましたね」
「わしが?部屋に?」
「そうしておられましたね」
「指が合わないんだよ」
老人は今度はこんなことをだ。宮里に言ってきた。
「女房に。指が」
「指が合わない」
「そうだよ。それにわしは指が好きなんだ」
抑揚のない言葉はそのままだった。
「女房の指は奇麗だよ。それで指を」
「腐らない様にされてから」
こう言われるとだ。老人は。
急に笑いだした。そしてこう
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ