巻ノ九十八 果心居士その十六
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「あれ位出来ずして我が主でないと言われ」
「扇で自身を仰がれつつ悠然とされていたとか」
「黒田様は幸い勝たれましたが」
「随分と恨んでおられたとか」
「あの一騎打ちは川の中で激しく組み合ったという」
鎧兜を着けて危うければ、というものだった。
「そのこともありな」
「お互いに、ですな」
「思われもして」
「そのこともあり」
「それでじゃ」
こうしたこともあったが為にというのだ。
「黒田様と後藤殿はな」
「ああしてですか」
「袂を分かれましたか」
「そうなったのですな」
「うむ、しかし後藤殿は何度も言うが天下の豪傑」
服部はとかく彼をこう言って評していた。
「天下の心ある者は放っておかぬな」
「早速細川様がお誘いをかけています」
伊賀者の一人が言って来た。
「後藤殿に」
「やはりそうか」
「はい、かなりの石高を示されてです」
「万石のじゃな」
「それだけの」
「そうであろうな、しかしな」
服部はその話を当然とした、だがすぐにこう言った。
「後藤殿は細川様に仕官されるが」
「されるが?」
「と、いいますと」
「すぐに家を去られることになろう」
「細川家をですか」
「そうなってしまいますか」
「黒田様のお怒りは相当じゃ」
それ故にといういのだ。
「細川様に言われてな」
「後藤殿を手放す様にですか」
「そう言われますか」
「そして細川様も黒田様がしつこく言われるのでじゃ」
それ故にというのだ。
「諦められるであろう」
「そうなりますか」
「そして、ですか」
「後藤殿は浪人としてですか」
「生きられますか」
「それこそ後藤殿を召し抱えられるのはな」
どういった者かとだ、服部は自身の家臣達である伊賀者達に言った。
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