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武装少女マキャヴェリズム〜東雲に閃く刃〜
第一話 夜明け前の茜色
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失敬」

 彼に向けているような敵意を込めず、鬼面女子は刀を構えたまま話を続ける。

「悪いが少々立て込み中だ。HRが始まるまで、空いている席に座っていてくれ」

 敵意無数、しかして受ける相手はただ一人。
 これは反している。
 何故。その言葉だけが無限に反芻する。この学園の事は聞いている。女の立場が限りなく上で、男が下。だが、それだけで認められるほど、東雲紫雨は――。


 ――人道逸脱。容認不可。


「武器を持つ者が寄ってたかって何事かッ!」


 発した一声で、クラス中の視線を集めてしまった。呆気に取られたようなそんな感情が丸見えの顔ぶれに対し、紫雨は全く恐れを感じることもなく、流暢に話を続ける。

「丸腰の相手へ向けるソレを何と心得る。一目する限り警棒の数々。……特に鬼面を被りし我が同級生」
「……私か?」

 名もまだ知らぬ相手へ紫雨はきっぱりと言う。その相手が、“どんな者”かも露知らず。

「貴方にとって、その手に持つ一振りは相手を脅すに過ぎないものなのか?」
「なっ!?」

 返答に窮する所に、取り巻きの女子生徒達がガヤを囃し立てる。

「ちょ、ちょっと! いきなり何なのよ!?」
「鬼瓦さんに失礼でしょ!」
「天下五剣筆頭を知らないの!?」

 数人が紫雨へ警棒を向ける。
 結論から言うのならば、紫雨は失敗も失敗。大失敗をしていたのだ。

 ――鬼瓦(おにがわら)(りん)

 武装女子の頂点に立つ五人の剣客。そのまとめ役と言える人物に唾吐く言動をしたのだ。そんなことをして、ただで済む訳にはいかなかった。
 今ならまだ間に合う。自分の吐いた言葉を認め、そして頭を下げればこれから先、無事平穏に過ごせることは約束されていただろう。
 しかし、そのような安寧を享受できるほど、東雲紫雨は潤ってはいなかった。

「知らぬ。どのような崇高な名でも、このような非道が罷り通るには至らぬ」
「あ、あなたっ!」
「お、おいっ止めろっ!」

 数人の武装女子が警棒を構え、鬼瓦の制止の声すら無視し、拘束すべく駆け出してきた。
 いずれも敵意をむき出し。重傷を与えるとまではいかなくとも、傷つける意思がはっきりと読み取れる。警棒の威力は推して知るべし。
 ただ黙って受け入れる訳にはいかない。そのような物言わぬ暴力に屈する程、この身はやわに鍛えてはいない。

「数の利に任せて来るか……」
「おいおい。おたくは関係ないだろ! 大人しくしとけって!」

 まさかのここで納村からの声掛け。この土壇場で自分を心配してくれることに、有難さを感じたと共に――この窮地に絶対に屈してはならぬと自分へ言い聞かせる。
 背中に提げていた袋から取り出すは紫雨の魂である――竹刀。

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