第二十三話 アドバイザー
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っ?なんて?」
「変わらないわね、って言ったのよ」
「………ほっとけ」
アスナは呆れたように、しかし可笑しそうにクスクスと笑っていた。
褒められているわけではないことを理解したキリトは拗ねたようにソッポを向いた。
その理由は、すねているというものではなく、笑みをこぼす彼女の表情に見惚れそうになったから、ということを悟られないためだったりする。
再び、思考が回転を始める。
ルリが相当の実力を持っていることはわかった。《聖騎士》を相手に勝利を収めたというウワサを“信じている人”がいるという事実だけでも彼女の強さがうかがえる。
それだけの大物が、あの殺気。
正確に言えば、殺気としか言いようのないプレッシャー、視線を送ることができたのか。
射すくめられるほどのものはそこらのオレンジや、レッドにすら出せない。
それこそ“そちら側”の大物でもない限りーー
(……まさか、そんなわけがない)
脳裏に霞む《ヤツ》の姿を振り払う。
思い出したくもないし、安易に結びつけていいはずもない。
暗い思考を切り捨てて、見やるは隣にいるアスナ。ツボに入ったのか、未だ笑いが治っていない。
さすがに何か言い返したくなってくるくらいに。
しかし、何と言ってやろうか。キリトは考えながら、笑うアスナと転移門へと向かった。
過ぎ去る男女の背中を遠目に、彼女は独りごちる。
「さすが、二つ名で呼ばれるだけの実力者ね。あんなに簡単に見切られるなんて」
くるくると手で回して弄んでいるのは彼女の得物である短刀。
一見余裕そうな風貌だが、彼女の内心は穏やかではなかった。
彼女が得物を投擲した時、彼は彼女の視線に反応して避けたのだ。
それだけではない。
回避した直後、彼女はーー斬られることを覚悟した。
ーー否、正確に言おう。
『斬られた』と錯覚した。
彼女の視線をはね返す剣気。
実際、彼の手は背中の剣の柄を握らんばかりに宙を浮いていた。
「あの子が《勇者》ーー納得のいく話ね」
キリトの反応速度と気迫。この二つを間近で見たからこそ分かる。
おとぎ話にしか思えなかった“あの話”に信ぴょう性があることを。
「ということは、アスナが《お姫様》といったところかしら」
さしずめ、《黒の勇者》と《白の剣姫》
「ふふっ、かわいい子たちだこと」
内心の冷や汗はどこへやら。
ルリの表情が艶美な微笑みに染まる。
ふんふん♪と鼻歌混じりに彼らが視界から消えまで、じっと眺めていた。
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