第二十三話 アドバイザー
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朝の訪れを知らせる赤々しい太陽は、すっかり白く暖かな光を放ち始めている。
昨日とは比べものにならないが、風の気持ち良い比較的良い日だろう。若干の湿気を感じるので、午後近くから雨模様かもしれない。
しかし、問題は天気模様などという些細なことではない。
「…………………」
「………」
「………………………」
「………あの…」
「ハァァァァ………」
アスナの深い、深いため息にキリトはビクッ、と肩を揺らす。
時刻は午前10時。集合時間からすでに一時間が過ぎようとしていた。
しかし、なにも転移門前で長時間突っ立っていたわけではない。
ーー時間は少し遡る。
なんとか起きれたキリトと、五分前行動の五分前行動を遂行していたしっかり者のアスナの二人は約束の時間には集合場所に来ていた。
そこから転移門にて転移した先が第十五層主街区《パクス》だった。
この層は、言ってみれば江戸時代中期をモチーフとされている。時代劇などで馴染み深い風景だ。NPCたちの服装もファンタジーとは思えない和服姿だが、さして違和感を感じないあたり日本人の血が流れている証拠か、はたまたデザイナーの腕か。
久しぶりに来る下層域に懐かしさを抱きながらキョロキョロと周りを見渡していると、アスナがこちらを見ていた。
コホン、とキリトは咳払いを一つ。
訝しげなアスナに「ついてきて」と言われて後ろをひっついて行く。
なぜか無言のアスナにびくびくしていたが、どんどん圏内中央部から離れていく道を進む彼女にさすがに不安を煽られた。
「な、なあ……これ、どこまで行くんだ?」
「…………」
「お、おい……?」
「黙ってついてきて」
「イエス・マム」
即答での敬礼だった。それは鮮やかに、滑らかに。もはや敏捷の無駄遣いといえる早業であった。
臨戦態勢時でも見たことのない別種の気迫。決死に匹敵する覚悟を擁するそれに、これ以上口を開けば命はない、とキリトは確実に悟った。
進む道のりはやがて圏内中央部の光景から別のものへと変化していた。
連なる民家は消え去り木立へと。石畳みで舗装された路は無造作に撒かれた砂利道へと姿を変えた。
一度拠点にしていた層ではあるが、キリトにはこのような光景に見覚えはなかった。記憶がおぼろげになっている、というわけではない。訪れたことがない場所なのだ。
“あの”キリトが、である。
だがそれも当然だろう。
アスナに案内された経路はおよそ通ろうとして通るような道ではなかった。
くねくねと曲がり角を曲がり、民家と民家の隙間を縫うように歩く。
まるで迷路だ。こんな道を覚えているのは情報屋、もしくは使い慣れた人間くらいだろう。
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