ぬらりひょん
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たかねぇ」
―――え?
「え、え、ちょっと待て、エマってあれ?どうして俺…あれ?」
混乱する記憶の中で、何か強引な手段で捻じ曲げられていた記憶のピースが、不意に形を取り戻し、かちりとはまった。信じられないことに、俺はすっかり忘れ果てていたのだ。さっき、鴫崎と話したばかりだったのに。
………何故、飛縁魔が玉群の家で普通に生活しているのだ!?それに。
「何で俺は気が付かなかったんだ!?」
愕然とする俺。背後で大爆笑しながら雪の中に崩れ落ちる奉。
「お前らのやりとり見ながら吹きそうだったよ、何が『実子だからって』だよなぁ!あっちはガチの妖怪勢じゃねぇの!」
「笑いごとじゃないだろ!?鴫崎もごく普通に接してたぞ!?」
「さっきの答えだよ」
―――あれが、ぬらりひょんだ。
そう云って奉は膝の雪を払って立ち上がった。
「何の目的で?」
「本当のところはよく分からんねぇ…だが俺は飛縁魔の侵入を見逃すことで、対価を得ている」
―――合点がいった。
あれは『取引』だったのだ。
玉村宅に居場所を得る対価として、飛縁魔は奉の為に動いていたのか。
「…すっきりした顔をしているねぇ」
まだにやにや笑いながら、奉が呟いた。
「合点はいったが、もやもやが増えたよ」
そうだねぇ…奉はそう呟いて、舞い散る雪を目で追うように視線を動かした。
「ぬらりひょんという妖は、他の妖とは一線を画す描かれ方をされることが多いねぇ、不思議なことに」
「…それは俺も思った」
あらゆる漫画や小説で、ぬらりひょんという妖はえらく高い地位に設定されている。やること自体は他愛もない家宅侵入なのに。正直、忙中ひっそり人ん家に入り込んで茶を呑むくらい、俺にだって出来そうなことではある。
「ぬらりひょんと、他の妖怪の決定的な違いとは何だと思う、結貴?」
「ヒントのない問いは嫌いだと云っただろう」
「妖ってな案外、素直なものでねぇ。大抵の妖は『理』に忠実に動くんだよ」
「なんだそれは」
「人ん家に入り込んで尻こ玉を抜いていく河童はいないし、陸に上がってアクティブに仲間を集める船幽霊もいない」
「あー…」
確かに尻こ玉が欲しければそこら辺の民家を襲撃すれば早いよな。
「こう云い切ってしまってよいのかは知らんがねぇ…これは人と妖の間に太古から育まれ続けている暗黙の『契約』のようなものに思える。俺がここに居着く前から、人とあいつらはずっとこんな感じだった」
だからそれが果たして契約なのか、もっと別の何かなのかは分からんが…と、前置きをした上で奉は続ける。
「ぬらりひょんだけは、その『契約』の部分がひどく曖昧なんだよ」
「曖昧…?」
「例えば、垢舐めは風呂場を綺麗にしておけば寄ってこない。この間の輪入道は、『勝母の里』の札を貼っておけば
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