ぬらりひょん
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入り込む妖。火鉢の傍で茶をすすったりしているが、忙しさに麻痺した人間にはその存在も違和感も認識すら出来ない。
「…つまり、お前の居場所にぬらりひょんが入り込んでいるのか?」
「さぁね。なにせ認識すら出来ないのだからねぇ」
小馬鹿にしたような声色を含ませ、奉が答えた。煙草を弄ぶ指先に、きじとらさんが小さな灰皿を置く。…家事も力仕事もまっっったくしないせいか、奴の指は腹立たしい程に整って美しい。
やがて、襖の裏側から小さな咳払いが聞こえた。
「エマさん、本日から寝室はいかがいたしますか」
小諸さんの声がする。今日は見かけないと思っていたら、急に帰って来た奉の為、荷物整理に忙殺されていたようだ。たまに奉が動くといつも、漏れなく周りの誰かが迷惑を被る。
「空いてる部屋を適当に使うわ。気にしないで」
「お前っ、ここ、エマさんの…!」
シンプルだが小奇麗に整えられた居室を見回してみる。こいつの部屋にしては本がないな、とは思っていたがこいつ…!!
「お前な…一応実子だからって、やっていいことと悪いことがあるぞ!?」
奉は心底面倒臭そうに紫煙を吐き、本当に煩わしそうに立ち上がった。
「―――もう帰れ。そこのコンビニまで送る」
玄関を出ると、いよいよ強くなった吹雪が横面をはたいた。どうやらここ数年でも屈指の積雪になりそうだ。もう帰れ、と云われた時は少しむっとしたが、奉の判断は正しかった。ふと後ろを見ると、奉も紺色の襟巻に鼻を埋めて寒そうに、渋々ついてきていた。
「珍しいな」
「……あぁ?」
「奉が、送ってくれるなんて」
返事も、憎まれ口すらもなかった。視界が悪い中、俺と奉は黙々と歩き続けた。
「……さっきの、ぬらりひょんの話」
奇妙な沈黙に耐え切れず、話の口火を切ったのは俺だった。
「続きがあるんだろ」
奉の肩が小さく震えていた。俺は少しだけ歩を緩め、奉の横を歩く。奉を震わせる何かが…あの家で。
「くっくっく…」
……あ、これ恐怖とかじゃねぇや。笑ってるだけだ。
「お前、一応確認するが、さっき何かに気が付かなかったか?」
何を云っているんだ、こいつは。
「何かって何だよ。餅に変な物でも混ぜたのかよ」
「くくく…本当、気が付かないものなんだねぇ」
「そういうヒントのない謎かけ、本当に厭なんだよ。子供か」
「面白いねぇ……」
歩調を合わせる意味をまっっったく失った俺は、再び縦列で歩き始めた。…コンビニまでの雪中行軍。意味が分からん。別に何もないなら奉は何でついてきたのだ。
「結貴よ、本当に何も気が付かないのか」
背後から、尚もしつこく奉の笑いを含んだ声が聞こえた。あーもう、うるさい。謎々ごっこは終わりだ。
「しつっこいな、何だよ一体。ギブアップだよ答えを教えろよ」
「エマ…って、誰だっ
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