第五話 思いを成し遂げるには
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かったのだが、言われて改めて感覚を研ぎ澄ませると、僅かだが不規則な揺れを感じた。
翼が嘘や冗談を言うような類には見えなかった。ということはもう、それは真だということだろう。
「……」
「どうしましたか?」
「……いや、まさか潜水艦に乗れるとは夢にも思わなかったから、な」
「丁度いい。翼、鳳君を空いている部屋へ案内してくれ」
「分かりました。では鳳さん、私に付いてきてください」
促されるまま、翼に付いて指令室を出ていこうとすると、弦十郎は鳳を呼び止める。
「一日経っても、君の決意が変わらなければ――いいや、君が本当に“覚悟”出来たのならば、また俺の前に立ってくれ」
「……分かった」
廊下を歩いている間は無言だった。翼からはもちろん、鳳からも話しかけない。話すことが無い、と言えばそれまでだが鳳自身、色々な事を一気に知ってしまったせいか、まだ整理が追い付いていないというのが正直な所だった。
「鳳さん」
「どうした?」
「先ほどはすいませんでした。言い過ぎました」
「いや、俺も悪かった。真剣に戦っているお前達の事を軽んじる発言だった」
心からの謝罪だ。
あの時、あの瞬間、誰よりも戦場を軽んじていたのは他でもない自分。
それは認める。だけど、それ以上に、鳳にとってあの出会いは衝撃的すぎたのだ。
「だけど、風鳴。俺は一切冗談を言ったつもりは無い。それだけは、分かって欲しい」
「……この際、戦場に出ようとする理由は問いません。ですが、だからこそ、それだけの理由で戦場に出ようとすることが私には――許せないのです」
返事を待たずに、翼は続ける。
「沢山の人を見てきました。逃げ惑う人々。銃を手にし、懸命にノイズと戦う人々。為す術なく炭素へと転換させられた人々。皆、命懸けでした。ですが、今の鳳さんにはそれが感じられない。ただ、悪戯に繋いでもらった命を散らしに行くようにしか見えないのです」
「……」
「叔父様――風鳴司令はそんな貴方を見極めようとしている。武士なのか、はたまた狗なのかを」
そこで言葉を切り、翼は空き部屋の扉へと視線を移す。
「ここです。ある程度の自由は認めますが、それでもあまり出歩かないようお願いします」
「ああ、気を付けよう」
一礼し、去っていく翼の背中が何だかやけに大きく見えた。あれが“戦う者”の背中だと思えば、戦場に年下も年上も無いのだなと思い知らされる。
扉の開閉スイッチに指を掛け、だが外す。辺りを見回して、誰も居ないことを確認するや否や、鳳は歩き出した。
純粋にこの潜水艦の中を見て回りたい少年心が働いてしまったのだ。見つかればそれまでの小旅行。
「……覚悟、か」
歩きながら、鳳は独り言つ。
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