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彼願白書
リレイションシップ
グリップ
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壬生森の話を聞いている。

「米国に理性があることを、私は信じるべきだと思います。」

「それは、分析官としての見解かね?」

藤村の短い質問に、壬生森は答える。

「もっともらしく言っても、つまるところは『人の良心』に寄って立つ見解であることは弁明しません。しかし、保険が必要とあらば、その保険を用意できます。」

「その保険とは?」

「これを。」

壬生森は内ポケットから、熊野からブルネイでの別れ際に渡された手紙を藤村の前に置く。
桜色の洒落た紋様に、わざわざ封蝋がしてある封筒。

「かつての部下からラブレターを貰うような、罪作りな色男になったつもりは毛頭ないのですが、どうやらそうでもなかったようで。返事に悩んでいたのですが、必要とあらば、と。」

「……秘書官が拗ねるぞ?」

「ビンタのひとつくらい、覚悟してますよ。」

「酸素魚雷を食らわされるぞ?」

「まぁ、それはそれでしょう。」

藤村と壬生森の会談は、最後は笑い話で決着した。
壬生森の魚釣島行きは、そのあと日をおかずに本決まりとなり、巡視船『おおどしま』も魚釣島所属となったのだ。



「お前が二つ返事で納得するとは、思いもしなかったがな。」

「前にも言ったでしょ?アンタのいる所が、私の戦場よ。アンタの戦場が永田町から魚釣島に戻るなら、それに付いていくだけよ。」

カツカツと靴音が鳴り、壬生森は叢雲と熊野、そして鈴谷を伴っていつかぶりかの司令本部内の廊下を歩いていく。

「まぁ……戻ることにしたきっかけは気に入らないけど、そのくらいの些事を笑って流せるくらいには喜んでるのよ。」

叢雲は含むところがあるような微笑みを壬生森に向ける。
同姓である鈴谷からしても、どきりと来るような笑顔だった。
そんな叢雲に、壬生森は頬を指先で掻く。

「……君は、また鳳翔のメシが毎日食えるのが嬉しいんだろう?」

「それもあるわね。」

「あるんだ……」

壬生森の言葉にこともなげに返す叢雲に、壬生森はさすがに毒気を抜かれる。
そんな二人の様子に、熊野はささやかに頬笑む。

「お二人とも。今までの留守にしていた分、キリッキリに働いてもらいますわよ。」
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