第一章 天下統一編
第二十二話 夜襲
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る。更に歩くと視界に屋敷が目に入った。屋敷は頑丈そうな造りだ。俺を周囲を一通り見回すと屋敷に視線を戻した。この屋敷は砦内の一番奥にある。砦の守将のための陣所といったところか。
「江川一族の者が籠もっていると思われます」
「江川一族。江川家当主、江川英吉か?」
俺は屋敷を見ながら曽根昌世に声をかけた。屋敷からは何も反応はない。物音一つしない。息を殺し屋敷に籠もっているのだろう。自害されては困る。さっさと降伏を促すとするか。
「それは分かりかねます。ですが、女と子供を見たという足軽の報告がございます」
「砦に女子供か。江川の者ならば、徳川に仕官した江川英長の元に疎開させたと思ったのだがな」
俺は疑問を曽根昌世に投げかけた。徳川に宜を通じたならば、戦が始まる前に徳川を頼り一族の者を保護してもらえばいいだけだ。それをしなかった理由はなんだ。
できなかった。いや、それはない。徳川領に逃げる有余はあったはずだ。豊臣家と北条家が交渉決裂し、秀吉が北条征伐の軍を率い大阪を立つまでに三十日以上あった。これだけあれば徳川領へ疎開できるはずだ。
「内匠助。お前が彼奴等を江川一族と思う根拠はなんだ?」
武田信玄から「我が両目」と言われた曽根昌世が不確実な内容を俺に報告するはずがないと思った。
「江川英吉の首はまだ手に入っておりません」
曽根昌世は視線を屋敷に向けた。俺も曽根昌世の視線の先を向いた。
「江川英吉はあそこか?」
「分かりません。ですが、あの屋敷に逃げた者の中に老将がいたと報告がございます」
「老将か」
俺は満足せず目を細め屋敷を見ていた。
「それと。老将は数名の侍に抱えられていたそうです。江川砦を攻める際、周囲を取り囲み蟻の逃げる隙間も造らずに一気に攻めました。江川砦に籠もる敵兵に逃げる暇は無かったはずです」
曽根昌世は俺に続けて有益な情報をもたらした。彼がそこまで逃げる暇がなかったということは事実なのだろう。
「そうか。内匠助、屋敷に逃げ込んだ者達に降伏を促したのか?」
「いいえ、まだでございます。殿の裁可をいただきたいとご足労をお願いいたしました」
「降伏を促せ。降伏すれば全ての命と身の安全を私が保証するとな」
「拒否した場合は?」
曽根昌世は顔を上げ俺の様子を窺っていた。
「降伏を拒否するなら皆殺しだ。武家の生まれならば覚悟はできているだろう」
俺は一瞬言葉に詰まるが、言うべき命令を曽根昌世に伝えた。彼は深く頷き屋敷の方へ向かっていった。曽根昌世は屋敷に逃げ込んだ者達に降伏を促すべく声を大にして俺の要求を伝えた。だが、屋敷から反応は無かった。
曽根昌世はしばらく待ったが屋敷から反応はない。彼は視線を一度地面に落とすと兵達の方を向いた
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