第一章 天下統一編
第二十二話 夜襲
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俺は五百の手勢を率い今韮山城正面大手門前に立っていた。日が落ち数刻が過ぎた。辺りの風景は漆黒の闇という表現が的を得ていた。その闇を照らすように、上弦の月が雲間から姿を現している。
虫の鳴き声が聞こえる。
その鳴き声をかき消すように鉄砲足軽達が得物の準備をはじめていた。
俺は拳を握りしめ瞑目した。
胸の動悸が止まらない。
これから俺は戦うんだ。
今までと違う。
敵陣の奥深くに切り込むことになる。
生きて帰ることができないかもしれない。
だが、俺は死ぬことはできない。
生きて帰る必要がある。俺の背中には家臣達、その家族の生活がかかっている。俺が戦死すれば皆が路頭に迷う。
俺はかぶりを振った。何度も何度も同じことが頭を過ぎった。死にことは恐ろしい。それ以上に俺の死がもたらす結果がさらに大きい。
俺は深呼吸をする。俺達の進軍を阻む大手門の扉は硬く閉まっていた。あれを俺達がやぶり奥へと進軍する。
俺はしばし大手門の様子を窺う。大手門から敵の反応はない。俺の軍が城に攻めかかるとは思ってもいないのだろう。もし、俺が城に攻め入るのを待ち構えているなら答えは直ぐにでる。
俺は兜の紐をしめなおした。俺は秀吉から下賜された兜と具足を身に着け、五七の桐紋を白糸で刺繍した真紅の陣羽織をまとっている。そして、腰には刀をさしている。俺の刀は俺の体躯に合わせ刀身を短くしている。それでも刀の重量はかなり重い。
俺は刀の柄に手を置く、これで人を殺すんだな。俺が生前に生きた時代は殺人は罪だった。この世界でもそれは罪だ。ただ、俺は戦争に身近な場所に立っているというだけだ。
人を殺す。
俺は平和の有り難みを痛感した。だが、関東で栄華を極めた北条家の滅びを体験するにつれ実感したことがある。
力が無ければ平和を保てない。
分かりやすく単純な言葉だ。どんなにきれい事を並べようと、侵略の意思を持つ者を言葉で制止できるわけがない。言葉で互いに妥協を探ることができるのは力を相手に示し、相手に力での侵略は無理と理解させる以外にない。
北条家は豊臣家に力を示すことはできなかった。
「殿、準備が整いました」
俺が視線を自らの刀に視線を向けていると、鉄砲頭・岩室坊勢佑が俺の元までかけてきた。彼は俺に膝を折り城攻めの準備が整ったことを報告をした。
とうとうか。
北条氏規。お前の目論見通りにことを進めさせる訳にはいかない。俺の立身のために、お前には悪いが勝ちを譲ってもらう。
俺の鋭い視線が大手門の扉を捉えて放さなかった。
「勢佑、いつもどおり鉄砲を大手門に打ち込め!」
俺は声を大にして叫ぶ。
岩室坊勢佑は「かしこまりました」と頭を下げ立ち去ると鉄砲組の組頭に指図をはじめた。そして、岩室坊勢佑の「
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