第三話 嵐の中に少年は立ち
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外へと飛んでいこうとする瞬間。その名の通り『増殖分裂タイプ』の特性は分裂するとそのまま一つの個体となることである。一つが二つ、二つが四つ、四つが八つ。それが会場の外に放り出ればあっという間に……。
「…………ッ!」
浮かぶはあの光景。両親が物言わぬ炭素と昇華させられ、自身に降り注ぐ瓦礫の破片。怒号と断末魔の地獄絵図、無上の残酷、果てぬ絶望。寒気すら覚える忌まわしき敵の残影。
嗚呼そうだ。自分はあの時――――!!!
「『灼熱の木々を駆けて』ェェェ!!」
両の籠手から高速で伸びる無数の鎖でノイズの破片を搦め捕る。確実に、だが絞め潰さないように会場の中へ叩き付ける。
凪琴は歌を続ける。己の憎しみと非力さと情けなさを全て込めて力と為すために。
「『業火の腕に躰を捕られ』……!!!」
直後、鎖を構成する部分全てが刃となり、ノイズを一息で切り刻む。
――乱れ裂く火曜。凪琴の“歌”が織り為す絶技が一つ。ナスターシャ教授の邪魔をせず、なおかつ“自分”を曲げないグレー中のグレーゾーン。
今度こそ凪琴はその場を後にする。乗り越えて見せろ、と言外に視線を走らせ――。
◆ ◆ ◆
「はぁ……! はぁ……!」
『増殖分裂タイプ』が出現する前には既に会場を脱出していた鳳は酸素を求め喘いでいた。灰色のシンフォギア装備者――凪琴ともう一度話したい気持ちでいっぱいであったが、あれ以上は本当に翼達の邪魔をしてしまう。
そして何より、黒服の男から託されたトランクがある。これを無事にどこかの誰かに届けないことには終われなかった。
そっと頭のバンダナに触れる。確かにある。今度こそ間違いなく。
「はぁ……くそ、むしろ五体満足で戻ってこれたのが奇跡と喜ぶべきか……」
今日は様々な事がありすぎた。シンフォギア装備者の素性、そして何が始まろうとしているのか、その全てを理解できたわけではない。しかしはっきりと言えるのは――――。
「鳳郷介さんですね」
鳳の前に現れたのはスーツを着た茶髪の男性であった。柔和な笑みを湛えるその男の印象はずばり“優男”。それだけだったらまだ良かった。だが、一時期は死線を彷徨ったのが原因なのだろう。纏う“モノ”が明らかに違って見えてしまっていた。
「あんたは……?」
「申し訳ありませんがそれは言えません。と、身分を隠して一方的にお願いするのは大変恐縮なのですが……」
その男は端的に、絶対的に、その言葉を口にする。
「我々と一緒に来てください」
逃げよう、と思った時には既に男の仲間らしき男達に囲まれていた。考えること数瞬、鳳は素直に従うことを決定した――。
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