巻ノ九十八 果心居士その一
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巻ノ九十八 果心居士
近頃都で面白い話が広まっていた。
「ほう、それはまたのう」
「面白い話じゃ」
「あの御仁まだ生きておられたか」
「そして修行の日々か」
「そうされておられるか」
「果心居士殿がのう」
この実はおらぬではないかという者すらいる仙人だの妖術使いだの言われる者がというのだ。
「都の何処かにいてか」
「天下妖術の修行をしておるか」
「仙術ともいうが」
「それに密かに励まれてか」
「何かを為されるおつもりか」
「果たして事実か」
「わからぬのう」
こうした話が出ていた、しかし家康から西国とりわけ豊臣家の目付を言われた板倉はその話を聞いてもこう言うだけだった。
「そういう噂は別によい」
「特にですか」
「幕府としては気にせぬ」
「そうしていかれますか」
「別に天下や民を乱す訳でもあるまい」
穏やかな声で言うだけだった。
「それならばな」
「別にですか」
「いてもいなくてもですか」
「別に構わぬ」
「そういうことですか」
「そうじゃ、何でも伴天連の者達は自分達と宗門が違ったり怪しげな術を聞くとわかるとすぐに惨たらしく責め殺すらしいが」
板倉は彼等のことは眉を顰めさせて述べた。
「幕府はその様なことは一切せぬ」
「怪しい話でも天下や民を害さぬのならですな」
「別によい」
「そういうことですか」
「そうじゃ、何故その様な愚かなことをするのか」
伴天連の者達はとだ、板倉はこうも言った。
「わからぬ」
「ですな、確かに」
「宗門の違いなぞ別にどうということはありませぬ」
「怪しげな術でもそれが害にならねばよい」
「害になる話ならじっくりと調べることですな」
「あちらでは話を聞いただけで引っ捕え酷く責め殺すという」
板倉もこの話を聞いている、それで言うのだ。
「それは政道ではない」
「まことの政道を知る者の行いではありませぬな」
「それは外道のすることです」
「かの足利の六代殿さえされなかったこと」
「あの方ですら」
足利義教、とかく恐ろしく大悪将軍と言われた彼ですらというのだ。
「その様なことはされませんでした」
「宗門が違ったり噂だけで責め殺すなぞ」
「そこまでした者はいませぬ」
「伴天連は実に恐ろしいですな」
「何を考えておるのか」
「その伴天連の様なことは決してせぬ」
板倉はまた言った。
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