第一話 亡霊が泣く〜前編〜
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次の台詞が手に取るように予想できる。
ラインハルトがちょうど喋りだそうとしているので、ライカも心の中でその台詞を一緒に呟く。
「本日付で転属となる」
(本日付で転属となる)
予想していたとは言え、こうはっきり言われると中々心に来るものがあった。この反応は予想外だったのか、ラインハルトは怪訝な表情を浮かべ、こちらを覗き込んできた。
「あまり驚かないのだな?」
「三度目ともなると流石に慣れますから。それに理由も……分かっています」
ラインハルトが沈黙した。
それもしょうがない、とライカはむしろ言葉を選んでくれているラインハルトに感謝していた。
「決して誤解をしないでほしい。素行に問題があった訳ではないし、中尉の腕はこの私が認めている。それに、『グランド・クリスマス』の戦いでも君は――」
「その話は止めてください。もう、終わった戦いなので」
ラインハルトがまだ何か言いたそうだったので、ライカは無理やりにでも話を終わらせに掛かる。その単語を出されると自分は上下問わず感情を揺さぶられるのだから。
「それで、私の次の配属先は?」
「……向こうのたっての希望でね。伊豆だ」
『伊豆基地』。自然とライカは背筋を正した。あそこは色々と問題があったと聞く。
例えばこんなこと。
「伊豆……ケネス・ギャレット“元”司令がいた所ですね?」
「ああ。彼は……我が身可愛さが過ぎて、大局を見据える眼がまるでなかった。私はね、中尉。彼がすぐに終わることは分かっていたよ」
「それは……その経緯を把握した上での発言ですか?」
無言で頷くラインハルト。それを見て、特に何もいう気はなかった。
というより、ライカはある意味ケネスに同情の念すら抱いていた。ケネスは自分にとても正直な人間だったと思う。我が身可愛さで色々なことに手を染めていたとはいえ、その目的は純粋に自分のためのみ。
清を呑みすぎれば『偽善者』と陰口を叩かれ、濁を呑みすぎれば『鬼畜生』となじられる。
そんな世の中で彼は少しだけ、濁を呑みすぎただけ。自分には真似できない事だ。……否、当時の自分には“想像”すら出来なかった。
「そうだ、すっかり忘れていた」
息苦しい空気はいつの間にか霧散していて、その代わりとばかりに、ラインハルトはテーブルの上に携帯端末を乗せた。
「これは?」
「見たまえ。データファイルが一件入っているはずだ」
促されるまま、ライカは携帯端末を手に取り、滑らかに操作する。
ファイルを解凍し、開かれたデータを見たライカは驚きで目を見開く。
端末の画面をスライドしてはしばらく眺めるといった作業を繰り返したあと、ライカは静かに端末を置き、ラインハルトへ視線を向けた。
「……これ
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