第十一章
[8]前話
「帰ります」
「聖地にはだな」
「もう行きません、皆がいなくて希望も見失いました」
完全にだ、そうなったからだというのだ。
「ですから」
「そうか、じゃあな」
「帰ります」
ニコラスは肩を落としてだ、そうしてだった。
「そうします」
「わかった、じゃあな」
「船にですね」
「まずは帰ろうな」
船乗りはニコラスのその肩に手を当てて声をかけた。
「そうしような」
「お願いします」
「そしてあんたの街に帰って」
「そこからもう出ることはありません」
街に帰ったその時からのことも話した。
「そうします」
「そうか、あんたがそう思うならそうしろ」
船乗りも強くは言わなかった、もっと言えば言えなかった。
「あんたが望む様にな」
「そうさせてもらいます」
ニコラスはまた頷いた、そしてだった。
彼は帰路についた、もう振り返ることはなかった。そして十字軍について語ることもなかった。
故郷に帰ってだ、彼は街の者達にこう言うだけだった。
「皆エルサレムに向かってどうなったかわかりません」
「わからないか」
「そこからはか」
「はい」
真実は語れなかった、そしてそれからだった。
彼は何も語らなかった、もう故郷から出ることもなく教会に行っても何も語ることはなかった。ただひたすら口をつぐむだけだった。特に彼等のことは。
希望の国 完
2017・3・23
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